幕間 二人の預言者
マアサ国の首都の一角にある小料理屋。
そこにフローラとリーファの姿があった。
「それで? わたしに何の用かしらー?」
のんびりとした口調で語るフローラの前には一皿三人前はあろうかという大皿に盛られた料理が大量に置かれていた。
これは別にフローラとリーファがそれぞれ食べる量ではない。フローラ一人の為に用意された分だ。
「おごるといったのは確かだけど、遠慮というものを知らないの?」
「直視するな。気のせいだ。気にするな。私としては普通の量よー」
「……私の口調までもっていくんじゃない」
おごるから好きなだけ食べてくれ……彼女を引っ張り出すためとはいえ、これはさすがに禁句だった。
彼女が大食漢だということは知っていたが、これほどとは思っていなかったのだ。
リーファは自身の財布を見てため息をついてしまう。
「それで、とにかく、とりあえず、本来に入らせてもらうが……」
「店員さーん。お肉もっと追加してほしいわー」
「はい! 喜んで!」
在庫は大丈夫なのだろうか?
店員はニコニコ笑顔で応対している。
「って、聞け! 清聴しろ! とにかく黙れ! 本題に入ると……フローラ。このあたり一帯のことどう思う?」
「このあたり一帯? マアサ国のことかしらー?」
「そうだ。新政策で浮かれているこの町の未来をお前はどう見ているか知りたいのだ。そういったことは、私よりもお前の方が得意だろう?」
「そうねぇ」
フローラは人差し指をくわえて涎を垂らしながら料理を見つめていた。
「へい。焼肉盛り合わせお待ち」
「ありがとーそれじゃ、いただきまーす」
料理が出そろったところでフローラは勢いよく料理に食らいつき始めた。
「あの……フローラ?」
リーファが話しかけるが、返ってくるのはガツガツムシャムシャ、ガツガツムシャムシャという音だけだ。
「あぁそうだったわね。この町の未来だっけ?」
そう言いながら、彼女は一口大の団子を口に放った。
「しょうねぇ……」
「せめて飲み込んでからしゃべってくれ」
気づけば、いつもの口調など忘れてリーファは一人困惑していた。
一体全体、彼女の食事を日々造り続けているという従者はどれほどの人物なのだろうか? いや、そんなことよりも食べ方が鬼気迫るものがあった。
「フローラ。急がなくても料理は逃げないぞ?」
「いいのよーこれが私の生きがいなんだものー」
「はぁそれだけ食べて、ちゃっかり痩せているお前がうらやましい……では、なくてだな。いや、まぁいい。食べ終わってからきく」
半ばあきらめによる譲歩である。
おそらく、彼女はこれをすべて平らげるまで止まらないのだろう。
その後、数十分にわたりリーファは、恐ろしい量の食物がフローラの胃の中に納まっていく様を眺めていた。
*
小料理屋を出たリーファは財布の中身を確認して深く深くため息をついた。
はっきり言って、彼女の食費はリーファの手持ちだけでは足りなかった。
そのため、店の主人には明日には払うと約束して店を出たのだ。
情報料としてはかなり高くついてしまったため、今度からこの手で誘うのはやめようと本気で誓う。
「まぁでも、有力な情報は得たし良しとするか」
彼女が見通した町の未来。それは、これまでにないほど急速な速度での変化である。
それが何によるものなのかは、リーファとフローラ。二人の力を合わせても知ることはできない。
ただ、自分たちが観測できない突飛な出来事が起こらない限りはその未来へ向けて突き進むのだろう。
「これまで、戦いに明け暮れた土地にもたらされる発展……どうなるのかしらね……」
リーファの声は、誰かに届くということはなく夕暮れ時の喧騒の中にかき消されていった。




