第二百一話 ローズとマリー
反乱軍のアジトをあとにした誠哉の姿は町の中心部にあった。
そこは、普段であれば人があふれて活気に満ちているであろう場所であるが、今日はとても静まり返っていた。
「静かだな……」
何かあったのだろうか?
記憶が正しければ、昨日までは活気にあふれていたはずだ。
「当然さ。反乱軍、コリーヌ城……どっちにも関係ない人たちには今日から、反乱軍が動き出すって伝えてあるんだ。みんな、家の中に閉じこもって出てこないよ」
「なるほどね……どうやら、思ったよりもことが早く進んでいるんだね」
「そうさ。こっちはずっと昔から念密に準備してきたんだよ。情報が漏れ出たことすら少し驚いているぐらいさ」
となりを歩く少年はとても得意げだった。
「それにしても、スパイだとわかったうえで受け入れてくれる君たちってのはどうなのかね?」
「いやいや、別に問題ないよ。こちらにはこちらの考え方があるってね」
「面倒なことにうまいこと利用されるってわけか」
「さぁどうだかね?」
少年は笑っていた。
これから何が起こるかはっきりとはわからないし、彼らの目的もわからないが絶対的に悪い人たちじゃない。
なんとなくではあるが、そう感じていた。
*
「それで? 報告はありがたいけれど、お師匠様がわざわざ来るなんてどんなようかしら?」
いかにも面倒だという言動のマリーが座る書斎机の真正面にローズの姿があった。
「どういうというと?」
「……わざわざ魔族領内で反乱の兆しあり……しっかりと記録すること。それを言うだけ為にあなたがわざわざ出張ってくるわけがないといっているの」
場所は王宮図書館の奥。
いつも通りマリーが館長としての仕事をしているところに魔王城図書館の館長であるローズが突然、現れたのだ。
マリーは表向きは館長でありながら、裏では記録者という顔も持っている。
ローズがいうのは、館長としてではなく記録者での仕事をしっかりしろと暗に行っているようだった。
「私はお師匠様が心配するようなことはなく、そつなく仕事をこなしているつもりですが?」
「それならいいけれど……少し良くない話を耳にしたものだから」
ローズの言葉を聞いてマリーはやはり、そのことかと言わんばかりに顔をゆがめた。
「どこからの情報?」
「預言者よ。なんでも、あなたがいい加減に歴史を紡ぐ物だから記録者が混乱してるなんて話を聞いたのよ」
マリーは小さくため息をつくと、特に表情を変えることなく手元の本を閉じて反論する。
「そんなことはないわ。お師匠様がそんな話を信じるとは思いませんでした。そもそも、記録者、観測者、預言者はそれぞれ相容れないものというのは常識のはずでは?」
「えぇそうね。だからこそ、妙なことに手を出して足をすくわれないように気をつけなさいと言っているの」
マリーはスッと立ち上がり、ローズの前へ出た。
その顔はどこか不機嫌そうで、キッとローズをにらんでいた。
「お師匠様は私がそんなに頼りないというのですか?」
「いえいえ。私の弟子だから信じたいわ。ただね。火のないところに煙は立たないというでしょ?」
ローズはマリーの態度を見て、何かがあると直感していた。
ただし、それは口には出さない。
それは、ある種記録者としての癖かもしれない。
何事も裏付けをしっかりとしなければそれは、正しい情報とは言えないのだ。
預言者からの情報、マリーの態度……ただ、どちらも状況証拠で物的な証拠はどこにもない。
「そう。ならいいわ……」
だからこそ、物的証拠を得るためにここはあえて引き下がる。
はっきり言って、こういったこともあろうかとローズは自分の能力すべてをマリーにさらけ出してはいない。
それは、マリーにも言えることなのだろうが、師弟だからとすべてを知っているというわけではないのだ。
「さてと、検証と行きましょうか」
ローズが楽しげにつぶやいたその言葉が背後に立っているマリーに伝わることがなかった。




