第百九十八話 馬車の中の会話
山肌を縫うように馬車が走り続けて約二日。
誠哉と鈴菜を乗せた馬車はコリーヌのすぐ近くまで来ていた。
しかし、山肌は少し緩やかになったとはいえ相変わらず険しい道だ。
「あれがコリーヌだよ。そこはかとなくすごいところにある街だろ?」
鈴菜の指差した方を見てみれば、山の中に溶け込むように作られた町があった。
その町へ向けて馬車はゆっくりと下っていく。
「あんさんらはコリーヌで降りるのかね?」
その時、ちょうど向かいに座っていた旅人が口を開いた。
「えぇそうですが」
「そうですか……だったら、気を付けた方がいい。最近、あのあたりは物騒だからね」
「まぁ気を付けるつもりですから」
「そうならいいが……まぁ気を付けるに越したことはない。私が聞いた話じゃあの町ではもうすぐ大きな変革が起きるのだからな……」
意味深に言った旅人の顔はうかがえなかったが、彼の含みを持った笑い声だけが馬車内に響いていた。
誠哉は少し彼のことが気になったのだが、そのまま視線を窓の外へと移す。
コリーヌの町は目の前に迫っていた。
*
やがて、馬車はコリーヌの町へと入って行った。
遠目で見てもなんとなくわかってはいたが、この町の家は道の左右のがけから突き出るような形で作られていた。
「丘陵地帯ね……」
なんだか、どこぞのアニメでも見ている気分になる。
馬車が走っている道は家と家の間に位置し、家の庭からは子供たちが手を振っている。
「……そこはかとなく物騒には見えないね」
「そうだな。見る限りは至って平和だ……しかし」
反乱軍はまだ、表だって動いていない。
本当にそういうものがあるのならば、街の地下ともいえる部分に潜んでいる可能性が高い。
「あなたの目的のものは地下深くに隠れていて見つかるはずもない……そうかしら?」
「……どういった意味だか。まぁこの町をぐるっと見回って問題ないレベルならすぐに帰るよ」
ここでいう問題ないレベルというのはそもそも反乱軍やら市民が徒党を組んで町を占拠するなどの兆しがないときのことを言う。
それらの可能性を少しでも認めた場合は潜入、調査して場合によっては内部分裂などで空中分解するように仕込む……誠哉に託された任務はそれだけである。
「まぁいいよ。魔女はそこはかとなく平等な存在だ。基本的には中立とさせてもらおうかな」
「平等で中立ね……はたしてそうなのだか……」
誠哉は小さくため息をつく。
魔女とて、自身の意志があるニンゲンだ。
永遠を生きる者の考え方は違うといわれているが根本まで変質されてはいないだろうというのが誠哉の考え方なのである。
しかし、それは全く違う。
不老不死になるというのはいくつもの犠牲を払うということに他ならない。
感情を始めとしたニンゲンらしいことをいくつも捨てて魔女となったのだ。
だから、魔女にも観測者にも記録者にも預言者にもいくらわかっているつもりでもニンゲンの感情を取り戻すことはできない。
やがて、自分の暇をつぶすためだけに自らの欲に忠実に生きるようになっていく。
残念ながらそれが現実だ。
「……私たちはあくまで中立でなければならないの」
「そうかな。まぁボクは魔女でもなんでもないからわかることはできないかもね」
「そうね。そこはかとなくわかってほしくもないな……知らない方が幸せな現実の一種だよ。不老不死というのは……」
窓の外を眺める鈴菜の表情は複雑だった。
その後、駅に着くまで二人の間には微妙な空気が流れていた。




