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魔王の兄は旅をする  作者: 白波
第二章 森の奥へ
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第二十話 マアサが見た迷宮

 空は真っ青に晴れていて、日が痛いほどに照りつける。

 ときどき木陰の中に入ると幾分か涼しいが、暑さが完全に和らぐということはない。


「お兄様。そろそろ休憩を……」

「あぁーそうだな。今日は特に暑いし……そこの木陰で休むか」

「そうですね。さすがの私もへとへとです」

「いや、アリスは歩いてないでしょ」


 ローブの中から出てきて平然と疲れたと言い放つ妖精には困ったものだ。

 だが、悪さをするわけでもないのでそこまで気にすることもないだろう。


 横を見れば、自分の予想通り元気いっぱいの勇者アンナが不満そうな表情を浮かべていた。


「アンナ君。元気いっぱいでまだまだ歩けそうな君としては不安かもしれないね。でも、私も疲れたんだよね。戦士にも休息が必要なように勇者にも適度の休息が必要だろうね」


 最近、迷宮探索についてきている植物学者のオリーブは、本人曰くフィールドワークを多くする方らしい。そのせいなのか、見た目ではさほど疲れている様子は見受けられない。


 誠哉が見つけた大きめな木の下で皆、思い思いに過ごし始める。


 誠哉はオリーブと植物の話(主に食用)の話で盛り上がっていて、アンナはアリスとコソコソと内緒話だ。

 どちらの話にも加わる気にもなれなかったマアサは、少し離れた場所に座って空を見上げていた。


 そういえば、数年前のあの日もこんな暑い日だったかもしれない。


 マアサは、木陰からのぞく青空を見ながら昔のことを思い出していた。




 *




 迷宮には多くの謎があるが、階層構造はその象徴たるものだろうとマアサは思っていた。

 自分とて、さほど深くまで潜ったことはないのだが、幼いころ父に連れられて三つほど下の階層へ行った記憶がある。


 そこにはここと同じように森があったのだが、上には真っ青な空はなく茶色い岩盤があるのみだ。それなのに太陽光は最上層と同じように降り注いでいるように感じた。


「なんで上の階が落ちてこないんですか?」

「さぁな。さすがに私でもそれは分からない。でもな、神話だと神様が上から一生懸命持ち上げているって話だ」

「えっ! それじゃ、神様が手を放したら……」


 考えたくもない。

 下から見ればただの岩盤にしか見えないが、各層……特に最上層には多くの町がありたくさんの人が住んでいる。

 街で暮らしている人々のうち、何人が下層の存在を知っているのだろうか?


「上の層が一気に降ってくるだろうな」

「やっぱりそうなんですか! じゃっじゃぁ、神様が疲れないように応援しないといけませんね!」


 顔を真っ青にして必死になっているマアサの頭をなでながら、父はにっこりと笑っていた。

 それは、いつもの魔王としてでの顔ではなく、父親としての笑みだったと思う。


 父は、空を少し仰いでからマアサの目をまっすぐと見つめて思い出すように話し始めた。


「マアサ。これから私が話すことはとても大切なことだ。よくお聞き」

「はい。お父様」


 あの時の父の言葉は今でも覚えている。

 それが、彼の最期の言葉になったのだからかもしれない。


 結局、あの時になぜ、父が自分をあそこに連れて行ったのかはわからない。

 けれども、あの後一足先に魔王城へ帰った私の下へ来た知らせは父が行方不明であるという内容であった。


 あの時、父がどのような思いでそのようなことを口にしたのかはよくわからない。


 だが、あの時の父の言葉のおかげで今の自分があるのだと胸を張って言える。


「お父様。今はどこで何をされていますか?」


 空にあるのは茶色の岩盤ではなく、真っ青な空と白い雲だ。

 でも、もしかしたら父もこの空を見ているかもしれない。そんな思いに浸りながら、マアサは木の幹に背中を預けて空を見上げていた。

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