第十九話 オリーブの考察
多くの研究を重ね、数々の成果を上げてきた天才少女オリーブは、現在より数年前に忽然と姿を消した。
憶測は憶測を呼んだが、多くの人の注目を浴びるのがつかれて雲隠れしたと言われている。
今まで人々が雑草としてみなかった草に利用価値を見出し、有用だと思っていた果物に中毒性があり大変危険だと見抜いた少女の姿が森の迷宮にあるという事実を知る者は大変少ない。もっと言ってしまえば、オリーブの目的が植物の調査だけではないということを知る者はほんの一握りだ。
あの勇者や魔王、その二人を虜にする男とその男を主と呼ぶ妖精ですら知らない事実が隠されている。
「オリーブ」
「なんだい? セイヤ君」
「その誠哉君ってなんとかならないのか? 面倒なことになれない」
「いえ、これは私の口癖みたいなものだから気にしない方向でお願いします」
誠哉が頭をかいているのを横目で見ながらオリーブは周りの様子を探る。
まだ、ここら辺にはいない……
実際、彼女にとっては魔物の殲滅も魔王のたくらみもどうでもいいことだった。
とりあえず、自らの欲を満たすことだけが目的なのだから……
「オリーブさん。行きますわよ。この調子ではすぐに日が暮れてしまいますわ」
「あーそうね。魔物がいるのってやっぱり下層の方なんだから」
「そういえば、前々から気になっていましたが、あなたはなぜ、迷宮に下層が存在するとご存じなんですの?」
魔王から痛いところをつかれてしまった。魔王という身分を隠して迷宮探索をしているこの少女は、恐らく迷宮の下層に何があるか知っているはずだ。
多くの旅人は迷宮の直下には鏡の洞窟があるというが、それは迷宮の下層とはまた別のものだ。
その事実を知る人間もまた、ごく少数である。
「いえ、偶然にも知り合いに歴史学者がいるんで、そこが情報源ですね」
「歴史学者ね……だとしたら相当優秀なの?」
「えぇ。それはもう」
魔王と違って勇者はあまり、こちらのことを警戒していないようだ。
身分を隠さずに高らかと自分は勇者だと名乗る彼女のプライドはそれなりに高いのだろう。ただ、時々する奇妙な言動のせいで仲間ができないのはまた別の話ということでいいだろう。
勇者に自覚はないとはいえ、彼女は魔王の前で弱点をさらしてしまっているはずだ。歴代勇者の中でも特異な体質を持つ彼女と魔王自身の義兄のことを相当魔王は気にかけているようだ。
これは、勇者を倒すことしか頭にない歴代魔王のことを考慮すれば珍しい傾向で弱点を知ってもなお、それを利用して打ち倒そうとしないところの理由を追求したくなってくる。歴代初の女性魔王ということがある程度影響しているのだろうか?
「面倒だから事前に聞いとくけど、迷宮の下層ってどうやっていくの?」
「そうですわね……お父様は、どこかに下層へつながる階段があるといっていましたわ。おそらく、それを使えば良いかと」
そして、一番の謎は魔王の兄にあたるセイヤだ。
勇者同様異世界から召喚されたらしいのだが、わずか数時間で魔王を退位。魔王は男子しかなれないというルールを勝手に改定したうえで義妹のマアサを魔王に指名して魔王城から出て行った人物である。
しかも、長らく迷宮にこもっていた関係で彼の実力は全く不明。ただ、魔王として召喚されただけあってそれにふさわしい実力を持っているのは確かだろう。非常に興味深い人物の一人だ。
「主! そちらにおいしそうな果物がなっていますよ!」
「確かにおいしそうだな。オリーブ! これって食べられるのか?」
「大丈夫ですね! 結構、おいしかったはずですよ」
初めて見るもののはずなのに誠哉とアンナはオレンジの身の皮を丁寧にむいて食べて始めた。対してマアサは皮ごと食べて苦い顔をしていた。
そんなことはさておいて、果物を発見した彼女は妖精のアリス。
普段は誠哉たちの周りをくるくると飛んでいるのだが、時々どこかへ姿を消すことがある。そもそも妖精が人の前に姿を現すことはめったになく、彼女自身村にいるときはずっと、誠哉のローブの中に入っていた。(そのため迷宮に入るまで彼女の存在は知らなかった)
妖精が人の前に姿を現した上に特定の人間についていくという意味では彼女も特異な事情があるのかもしれない。
オリーブは、にやりと笑みを浮かべて彼らの背中を追いかけて行った。




