第十八話 植物学者
あの出来事から数日が経ったが誠哉たちは、相変わらず迷宮にいた。
一度は迷宮を出られたのだが、勇者が迷宮の魔物退治と魔物発生の原因究明を依頼され、それを受けてしまったために誠哉たちも巻き込まれる形で迷宮に潜っているのだ。
「おーこれはこれは……非常に興味深いですね」
奇妙な少女を加えて……
「あの……いつまでついてくるつもりですの?」
「あなた方が迷宮探索を終えるまでに決まってるじゃないですか! いやー勇者様が一緒だなんて心強いね。私も調査がはかどって仕方ないよ。何せ最近は魔物のせいで余計に進んでいなかったんだから」
この少女こそ、魔物退治の依頼主であり植物学者のオリーブ。魔物退治を依頼する一方、迷宮下部の植物の調査もしたくてついてきたらしい。
マアサやアンナはあまりこのことについていい顔をしないのだが、誠哉とアリスは違った。
戦闘時のことを第一に考える二人に対して、なるべく面倒がなく快適に過ごしたい二人としては、オリーブの知識が大いに役立っているのだ。
そもそも、オリーブ自身戦闘能力が皆無というわけではないらしい。
長年の研究で自然の力を取り込み、一点に集中させて放出する技術を学んだらしい。それを応用すれば、十分な戦力になると主張していた。
「ちょっと、私たちの一番の目的は魔物の殲滅および発生の原因究明ですのよ。こんなところで雑草を見て時間を無駄にするわけにもいきませんわ」
「聞き捨てられませんね! たとえば、今あなたが踏んでいる野草。それは、傷口に塗るとけがの治りが早くなるといわれています! そして、私が今見ていた草は、煮て食べるとおいしい草です! つまり、この世には余分な生命などないと教えてくれるのが子の迷宮というわけです!」
「どの口が言うのよ。調査できないから魔物を殲滅してくれって言ったのはどこの誰だったっけ?」
「えっ私ですけど何か?」
アンナたちとのやり取りを見ていると性格に難ありという判断を下さずを得ないが、この潔さもある意味彼女の良いところかもしれない。
「ちょっと! お兄様どう思います?」
「あなたもちゃんと意見言いなさいよ!」
そして、そんなことを考えている間に勇者と魔王に対策を迫られる始末である。
オリーブの様子を見る限り、悪意を持ってそのような行動をとっている節がないためよりたちが悪い。つまり、めんどくさい。
「ねぇ今めんどくさいって思ったでしょ?」
「なんで?」
「なんとなく」
一ヶ月と経っていないはずなのに、アンナは誠哉の言動をよく観察し、思考回路を理解し始めているらしい。
誠哉はため息をついてからオリーブの方へ歩き出した。
「オリーブ」
「はいはい。質問ですか? セイヤ君!」
「いや、質問というか……お願いかな? 面倒だと思うけど、こちらとしてはもっと早く先へ進みたいんだ。だから、早く先に勧めるよう協力してくれる?」
「えっ? まぁセイヤ君がそういうなら考えますけど……」
そう言って口ごもるオリーブはいかにも残念そうだが、こればかりは仕方ない。
今の自分たちがするべきことは植物の調査ではなく、魔物の殲滅なのだから。
「いや、しかしここはそう! 未調査エリア!」
「面倒だけどさ、もっと奥に行けばそんなものいくらでもあると思うよ」
誠哉の言葉でオリーブの動きが文字通りピタリと止まった。
そして、彼女はゆっくりと振り向いた。
「今……なんと?」
「いや、だから奥に行けば未調査エリアなんていくらでもあるって……」
「行きましょう! ぜひとも行きましょうじゃーありませんか! 皆の衆! いざ出発!」
“未調査エリア”や“未踏の地”という単語に弱いのだろうか?
今までの遅さがウソのように森の中を歩いて行った。
ちょっと変わった研究一筋の少女オリーブの登場です。
さて、彼女がどのような波乱を巻き起こすのか?
これからもよろしくお願いします。




