第十七話 光あふれる地上へ
やっとのことで火が収まるとぽっかりと穴が開いた天井から月光が差してきた。
どうやら、思ったよりも深い場所ではなかったようだ。ほんの半日ぐらい前の出来事だったのだが、生い茂る木々がひどく懐かしく感じた。
「ご無事ですか? お兄様」
あれほどの魔法を駆使した直後だというのにケロッとした顔をして戻ってきたマアサは、此方に満面の笑みを浮かべていた。
「どの口がいうか……それよりもアンナがまた魔力切れを起こした。面倒だけど、応急処置はしておいたから、治療の方を頼めるか?」
「えっえぇ……その、一応お聞きいたしますが、どのような処置を?」
「えっ? そうだな……」
なんだかよくわからなかったが、マアサから敵意というか、殺意に近いものが出ている気がする。
ただでさえ寒い洞窟の温度がさらに下がっているように感じるのは気のせいであろうか?
「マアサ?」
「お兄様。まさか、私を差し置いてアンナと口づけを交わしたのではありませんの?」
その途端、ボンっという音が出そうなぐらい一気にアンナは気を失って後ろに倒れこむ。
少し離れた場所で見守っていたアリスが焦って彼女のそばにより、それを見たマアサは満面の笑みを顔に張り付けたままさらに誠哉に詰め寄った。
「なるほど……アンナの反応は分かりやすくて助かりますわ……」
「あの……マアサ。面倒なことにこれはやむを得なかったというかなんというか……」
「お兄様!」
マアサの言葉が洞窟の中に響き渡った。
まさに魔王と呼ぶにふさわしい威圧感を放つ彼女を前にして、誠哉は対応に困り果てていた。下手になだめたところで彼女の怒りが収まるとは思えないからだ。
「まぁいいですわ。先に治療いたしましょう」
「えっ?」
「早く! 魔方陣を書く手伝いをしてくださいまし!」
それだけ言って、マアサはアンナの方へと歩いていく。
その背中からは、先ほどとはまた違った感じがするのは気のせいであろうか?
誠哉は、急いで床に魔方陣を書き始めた。
*
翌朝。
夜を徹した治療によりアンナは、徐々に回復し今ではいつもと変わらないようにふるまっていた。
結局、魔力切れの原因は分からずじまいだが、マアサの様子を見る限り彼女はある一定の結論に達しているようだ。
マアサが開けた天井の穴からロープを使ってよじ登り、今は明るい地上の森にいる。と言ってもまだ早朝で太陽はまだ、顔を見せていないのだが……
地上に上がってすぐにどこにいるか確認を取ろうとしたのだが、残念ながら地下で思ったよりも大きく移動していたらしく、迷宮のどこにいるか皆目見当つかないのだという。だが、落胆することはなかった。最初からそんなものだったのだ。また、根気よく探索することにしよう。
「お兄様、どっちに行きますの?」
「そうだな……ここから見て左の方に行ってみるか。アンナはどう思う?」
「私はみんなに合わせる」
アンナの了承が取れた誠哉は、荷物を持ち上げて出発の準備をする。
その時、穴から這い上がる際にローブの中に入っていたアリスが外へ出てきた。
「えっと、主……私はですね」
「良し! 少々面倒だけど、左の方へ行くか」
「また、面倒って……大体、あなたが左って言い出したんでしょ?」
「まったく、面倒だな。いちいち気にしないでくれると助かる」
誠哉たち三人は左の方へ歩き出して、アリスだけが穴の上に残される形となる。
しばし考えた後、アリスは全速力で誠哉たちを追いかけはじめた。
「おいて行かないでください! 主ー!」
小さな羽をパタパタと動かして、妖精の少女はこれまでにないぐらいの速度で誠哉の背中に向けて突撃していった。
読んでいただきありがとうございます。
この話で第一章は終わりとなります。次回からは、新たな登場人物を加えて第二章に入る予定です。
これからもよろしくお願いします。




