第十六話 洞窟を焼く爆炎
いつもと違う戦闘ということを踏まえて、アリスをローブの外に出して、アンナの方に向かわせた。
その時にアリスがこっそりと耳打ちしていったことを心にとめて誠哉はナイフを構えた。
マアサが奥に向かって地面をけると、それに続いて、誠哉も走り出した。
出来ればアンナのそばを離れたくなかったのだが、マアサの援護をして魔物を退治する方が優先されるべきだと思ったからだ。
アンナから離れることに少々の不安だったため、一応アリスをアンナのそばに置いて行ったが、それだけでは心配だ。
「「面倒だけど、さっさと終わらせ(る)(ますわ)」」
声に反応するように暗闇から氷塊がはなたれ、それを誠哉がマアサの魔法で強化された木の棒ではじく。
その隙にマアサは、次々と壁に火の術式を描いていく。
魔方陣を使うとは、彼女にしては珍しい行動かもしれないが、確実に灯りをともすために必要なのかもしれない。
暗闇の中の相手は、こちらを敵と認識したのか、次々と氷塊が飛んできた。
それを時に弾き、時によけながらアンナへの攻撃を防いでいた。
「ったく、めんどくさい!」
こういっている間にもまた、大きな氷塊が飛んでくる。
「マアサ!」
「えぇ! 準備できましたの!」
「あぁ! じゃあ、派手にやってくれ!」
「わかってますの!」
いつの間にか横に戻ってきていたマアサが懐から杖を出した。
少なくとも今までの戦闘で彼女がそんなものを取り出しているのを見たことはなかった。
「お兄様、下がってくださいまし!」
「わかった」
どこまで下がるかというのは聞くまでもなかった。
アンナが寝ているあたりまで戻り、強力な結界を張る。おそらく、彼女は誠哉が考えていたよりも大規模な魔法を使う気なのだろう。
それこそ、魔物ごと焼き尽くすような大規模なものだ。
普通なら、大規模な魔法を使う際一番心配されるのは魔力切れなのだが、マアサの場合はここでその心配はいらないだろう。
戦闘直前、アリスが教えてくれたのだが、魔王マアサは自然光が直接当たることのない暗闇から魔素を吸収しやすい体質なのだという。これは、彼女が特にそうというわけではなく、魔王の家計は皆そうなのだという。
つまり、鏡が反射したものを以外自然光が入らず、夜になればそれさえなくなるこの場所は、マアサにとっては最高の環境なのだ。
「偉大なる五大元素、炎よ! 禁忌なる爆炎よ、すべてを焼き尽くせ!」
彼女の言葉に呼応するかのように洞窟が真っ赤な炎に包まれる。
「まったく……無茶苦茶だな」
まさに魔王だからできる仕事だろう。
彼女は、敵が手ごわいと判断したのかもしれない。
洞窟を焼き尽くす炎は天井や壁をとかし、地形自体を変えていく。
途中、何かの断末魔が聞こえてきたが、それでもなお炎は収まらない。
「ここは?」
「結界の中だよ。説明するのは面倒だから、周りの状況は深く考えずにおとなしくしててくれる?」
「えっえぇ……周りの状況? って、どうして燃えて……うっ」
「アンナ?」
突然、彼女が血を吐いた。
大きく咳き込みながら、周りに血を飛び散らせ、右手からも血を流しだしていた。
あの時見た、魔力切れの症状とかなり似ていた。
どうして、戦闘に参加していない彼女にそんなことが起きるのか全く分からなかったが、とりあえずマアサから預かっていた薬を飲ませて応急処置をする。
「大丈夫か、アンナ!」
「……ごめんね……迷惑かけちゃって……」
「面倒だけど、迷惑なんてことはない。体に障るから黙ってろ」
「もう……また、面倒って……言ってるし……」
気を失いかけている彼女を抱き寄せた。
自分だけでは、治癒の術式を使うことはできない。だからと言って、マアサはしばらくこちらに戻ってくることはないだろう。
だとしたら方法は一つだ。
「良く聞いてくれアンナ。面倒だけど、お前に魔力を流す」
「……わかった」
魔力不足を補う一番簡単な方法は彼女へ魔力を直接供給するしかない。
幸いにも誠哉は、多量の魔力を保有している。
一番の問題は、魔力を流す方法にあると言っても過言ではない。
「行くぞ」
「……うん。あっでも、心の準備が……」
相当体調が悪いのか、顔を真っ赤にして何かをつぶやいているアンナの唇を誠哉の唇が塞いだ。
そこを通じて彼女の体内に誠哉の魔力が流れて行った。




