第百九十六話 丘に教会がある町
山脈を越える前にある最後の町でウマが確保できないとの理由でしばらく、休憩することになった。
誠哉は、馬車で一緒になった鈴菜と一緒に町を歩くことになった。
「どうして、こうなった。めんどくさい……」
「別にいいと思うよ。そこはかとなく美人と町を歩けるんだから……」
「はぁそうですか……まったく」
鈴菜はとても上機嫌だった。
その理由を誠哉は知らないが、不機嫌よりはましだろう。
彼女は、洋服店などを中心に回りながら、たまによる食料品店で保存食を買いだめして魔法で自宅へ送るというのを繰り返していた。
森の中で生活しながらどうやって収入を得ているのか気になるところではあるのだが、それは彼女個人の問題なのだから、つっこまない方がいいかもしれない。
ただ……
「これもそこはかとなく、デザインが良いが、着心地だとそこはかとなくこちらの方がよさそうだ……」
なぜ、女性の買い物というのは時間がかかるものなのであろうか?
誠哉の心境としてはあまりのんびりする気にはなれないのだが、鈴菜がかなりの自信を持ってすぐに反乱は起きないと豪語するのだ。
どちらにしろ、ウマが確保できない以上、ここでしばらく足止めを喰らうのは当然だが、少しは対策を練ったりしたいところだ。
そもそも、なぜ鈴菜がコリーヌへ行きたがっているのかという時点から疑問符がつくのだが、それを聞いても見事にはぐらかされてしまった。
「セイヤ。そこはかとなく次の店へ向かうぞ」
そんなことを考えている間に鈴菜の買い物は終わっていたようだ。
手荷物がないところを見ると早々に荷物を家へ転送してしまったのだろう。
「それで? 次はどこへ行くんだ?」
「そうだな……日用品はそこはかとなく買い揃えたし、ちょっとした観光とするのもいいかもしれないな。確か、丘の上の教会がそこはかとなく有名なはずだ」
「丘の上の教会ね……」
「そうだ。それにそこはかとなく、君が知りたそうな情報もあるからな」
「情報?」
誠哉が聞き返すが、鈴菜はただ黙ってついてこいとだけ言った。
誠哉は小さくため息をついて、彼女の背中を追いかけ続ける。
本当に彼女は何者なのだろうか……
行動パターンというか、考えていることがまったくわからない。
魔女というのはそういうものなのだろうか?
「何か変なこと考えてなかった?」
「いや、別に」
「ならいいけれど……とにかく、そろそろ馬車の準備もできるころだろうし、さっさと見てさっさと戻りましょう」
鈴菜は、先ほどよりも格段に早足で歩き始めた。
それにしても、そこまでしてみたい教会なのだろうか?
誠哉はそんなことを感じつつも彼女の後を追って歩いていく。
ふと、横を見てみれば真っ赤な夕日が沈み始めたころだった。
*
教会につくころには日がほとんど沈んでいて、真っ赤な町に夜の闇が迫ってきていた。
その教会はちょうど、街を見下ろす形で作られており、見てみれば町はおろか、森の向こうの平原まで見渡すことができた。
「すごいな……」
「でしょ。前にも来たことがあったんだけど、忘れなれなくてね。だから、せっかくここまで来たんなら、ここから夕日を眺めたくなったんだ。付き合わせちゃって悪いね」
「面倒だったけれど、こんなきれいな景色を見られたんならいいよ。まぁもっとも、素直にここに向かっていればあまり焦る必要もなかった気がするけど……」
「別にいいじゃない。少し忙しいぐらいがいいのよ。私は普段、暇で暇で死にそうなんだもの」
夕日をじっと眺めていた鈴菜は誠哉の方を振り向いた。
「そう。私たちのような永劫の時を生きる者たちの最大の敵は暇であるということ。だから、自身の暇を紛らわせるためにいろいろなことをやる。ただ、空から世界を見つめるのに疲れた観測者は地上への積極介入を始め、ただ世界の出来事を書き続けることを苦痛だと感じた記録者は自ら物語を紡ごうとする。未来をすべて知ることがつまらないと感じた預言者は自らの力を使わずに未来を変えようとする……仮に世界の神様がこの世を管理することに飽きてしまったらどうなるのかしらね?」
その時、少々不気味な笑みを浮かべている鈴菜の後方からやや強めの風が吹く。
不思議と彼女の言葉は誠哉の中へゆっくりと沈んでいった。




