第百九十二話 図書館の誠哉
魔王城の一角にある図書館。
そこに誠哉の姿があった。
しかしながら、館長の姿はそこにはない。
彼女は、つい先日出かけてしまったのだ。
誰も行先を聞いていないのだが、彼女が残していったメモによれば最低でもひと月ほど図書館を開けるのだという。
図書館の入り口からちょうど真正面にある書斎机に誰も座っていない光景というのは、どこかさびしささえ感じた。
「セイヤ様、ここにいましたか」
「マリナか……どうしたの?」
「いえ。姿が見えなかったので。ここで何をされているんですか?」
確かに普段、この場所にいることは少ない。
そもそも、本を読むことが少ないというのに加え、マアサ同様こそこそと城を抜け出したりするから余計にだろう。
そんな考えは表には微塵も出さずに誠哉は答えた。
「そういうことか……まぁちょっとね。面倒だけど見たい本があったからね」
「見たい本ですか……やはり、国のことですか?」
「そう。まぁ人に聞いてもいいんだけど、面倒なことにみんな忙しそうだし……下手に話しかけづらいでしょ?」
これは、本心から出ている言葉である。
実際問題、ノエルが国王となってから制度改革等々の準備であわただしくなっていて、本格的に改革を始めた暁にはさらなる混乱も予想されている。
それは、魔王城ないに限定したことではなく、国内すべてに波及するといっても過言ではないだろう。
「私たちは特に構わないのですが……」
マリナはどこかあいまいな笑みを浮かべていた。
「まぁあれだ。ボクとしてはあまりみんなに負担をかけたくないというか……」
「負担なんかじゃありません」
誠哉の言葉を遮るように発せられたマリナの言葉に誠哉は思わず黙ってしまった。
「負担なんかじゃないですよ……国内事情について私はともかく、周りの人たちはみんな詳しいですよ……だから、もっと頼ってあげてください。その方が絶対にうまくいきますよ」
「マリナ……」
誠哉は顔をふせる。
確かに誠哉はこの国のことは、あまり知らない。
だからこそ、ちゃんと調べる必要がある。
その手段として、人に聞くということを排除するのは間違いなのだといいたいのだろう。
「わかったよ……今度は、みんなにも聞いてみることにするよ」
そういって、誠哉は手元の本を閉じた。
「ところで何をお調べに?」
「いや、この国の歴史を少しね……温故知新っていう言葉があるみたいに過去から学べることは多いからね……」
「そうですか。確かに過去に学ぶというのは、それにばかりとらわれない限りは大切ですからね。私は仕事がありますのでこれで……」
そういうと、ノエルは深く頭を下げて、図書館を後にする。
残された誠哉は本を持って奥の方へ歩いていく。
「どうしたものかな……」
誠哉は小さく笑みを浮かべた。
マリナだって知らないことだらけで、不安なのだろう。
でも、彼女は笑顔で頼ってくださいと言ってくれた。
「いい部下を持ったわねー」
そのとき、誠哉の背後にピンクの髪を持つ少女が現れた。
「誰だ!」
「そんなにこわーい顔しなくてもいいじゃない……私はフローラ。預言者よ」
預言者……確か、観測者に並ぶ天界に住まう人々の一人だったはずだ。
「あらー観測者なんかとは、比べものにしてもらっては、こまるわーあんな集団なんかと一緒にされちゃったら私たちは、不快でたまらないわー」
彼女は、悠々とした動きで書斎机の前に移動する。
「まぁ預言者や観測者なんてものは、以外と近くにいるものなのよ……」
フローラは、ばさりと扇子を広げて口元に当てた。
「さて、私からの頼み聞いてくれるかしら?」
彼女は有無をも言わせぬ雰囲気でそう言い放った。




