第百九十一話 リンの考え
「おや、今日は上機嫌ですね」
診療所に帰ってきた夕は、何かいいことでもあったのかとても機嫌がよかった。
「そう? まぁそうね。町で珍しい人にあったわ」
「珍しい人ですか?」
「えぇ。それこそ、何年に一度で会えるか出会えないかぐらいの人よ……まぁこっちからいけば大体会えるけれど」
「どういう人なんですか……」
リンは、思わず苦笑いを浮かべる。
「彼女、かなりの出不精なのよ……それも一年に一回外にでればいい方だっいうぐらいのね」
「もしかして魔女だったりします?」
「かもしれないわね。私が知る限り彼女が年をとっているように見えないし……まぁともかく、そんな彼女と町で会ったのよ。それも、今年で二回目。何か良いことがありそうでしょう?」
「そういうことですか……」
それは、幸運といっていいのだろうか……そんな疑問はおいておくとしても年に一回ぐらいしか出ないという相手も相手だろう。
いくら魔女とはいえ、家の中ではいろいろと限界があるだろうに……
夕がいうその人物が気になって仕方がない。
いったいどんな生活をしているのだろうとか、そんなにひきこもっていて暇じゃないだろうかとか、そんな考えが頭の中をぐるぐるとまわる。
どれもこれも考えたところで仕方奈のない話なのだが……
「あら、気になったのかしら? 彼女のことが」
「まぁそうですね。どんな生活をしてるか気になりますね」
「だったら、今度暇を見て会いに行きましょうか。ちょうど、彼女のところに用事があるところだし」
「本当ですか!」
リンはぐっとガッツポーズをする。
「あらあら。まぁちゃんと仕事してね」
夕はどこか上の空のリンに声をかけて診察室の方へ歩いて行った。
*
夕が去った後、リンは鼻歌を歌いながら薬の調合を進めていた。
「機嫌がいいですね。リンさん」
「エイリーンか。ちょっとな面白い話を聞いたんだよ」
「そうですか……まぁあなたのことですから、相当興味深い話が聞けたんでしょうね」
エイリーンはやわらかい笑みを浮かべる。
それを見て、リンも笑みを浮かべた。
「まぁな」
「そうですか……私もあなたみたいに積極的に動ければいいのですが……」
「いやいや、いちいち動くのに深い意味なんていらないだろ。自分がうごきたいと思ったら動く。それでいいんだ」
「それができればいいんですけれどもね」
エイリーンは、今度は苦笑を浮かべた。
本当に表情が豊かだ。
「見てて飽きないな。エイリーンは……」
「どっどいういう意味ですか!?」
何を勘違いしたのか、今度は顔を真っ赤にしてあたふたし始める。
「まったく、本当に面白いというかなんというか……」
この場所に来れて本当によかったと思う。
ここにきて、まだ長くはないがそれでも笑顔が増えたと思う。
エイリーンもそうだし、自分自身もそうだ。
新しい国王がどうだとか、新しい制度がどうだとか言われているが、リンとしては、自分の世界さえ守られればいい。自分が大切にする世界が壊れなければいい。
そう思ってしまうのは傲慢なのだろうか? 自己中心的過ぎるだろうか? 周りがどう思うか知らないが、リンは少なくともそうは思えない。
ニンゲンとの戦いがなくなる。
それだけで幾分か世界は平和になるのだろうか? それとも、争う対象をなくした双方が内部に向かって瓦解していくのだろうか?
それは、誰にもわからない。
ただ一つ言えることは、これから世界にこれまでにないほど大きな変革が起こるということと、そこに至るまでにいくつもの犠牲が払われるのであろうということだけだ。
「それに皆が気付くのはいつぐらいだろうな……半年か、一年後か……はたまたもっと後か……」
「どうしたんですか? リン」
「いいや、こっちの話。それよりも、仕事サッサと済ませなくてもいいの?」
「そっそそうでした! 早くしないと!」
文字通り、バタバタという音を立てながらエイリーンが立ち去っていく。
リンはその背中をほほえましく見守っていた。




