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魔王の兄は旅をする  作者: 白波
第十五章 首都の現状
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第百九十話 図書館の客

 街で菓子などを買ったローズは急ぎ足で魔王城へ戻ってきていた。

 やはり、あのような話を聞いた手前黙っておとなしくしているわけにもいかない。


 できるだけ早くマリーのいる王宮図書館へ向かおうと考えたのだ。


 そもそも、王宮図書館へ行くにはそれなりの手続きがいるのだが、一応それらはすべてパスできるはずだ。


「それにしても、話が本当だとしたらあの子はどうしちゃったのかしら……」


 ローズの記憶の中にあるマリーはどこまでもおとなしくて、仕事に誠実で素直な人物といった具合だろう。

 その彼女が記録者の力を悪用するとは考えづらかった。


 確かに過去を観測し歴史を書き換えることもできる記録者の力は絶対的だ。

 しかし、それは自分の私利私欲のために使うべきものではない。


 だからこそ、彼女が間違った使い方をしているのならそれを正す必要がある。


 ローズが扉を開けると、書斎机の前にマリナが立っていた。


「おかえりなさいませ」


 彼女はそう言って、丁寧な動作で頭を下げる。


「あら、珍しいわね」

「えぇ。一応、先ほどまでお客様がいらしたのですが、お帰りになられました」

「そうなの? 残念ね」

「はい。まぁそのうちまた、来ると思いますが……」

「そうね。ただ、ちょっと私はしばらく出かけるから、その客人が来たらそう伝えてもらってもいいかしら?」

「かしこまりました」


 客人というのがだれか気になるが、今はそれどころではない。

 ローズは手早く準備を進めていく。


「遠くまでお出かけでしたら、準備手伝いますか?」

「別に問題ないわ。あなたにはあなたの仕事があるでしょう? それにこれは私の個人的な問題だから、勝手に準備して勝手に出ていくから気にしなくてもいいわよ」

「はい……ならいいんですが……」

「わかったら、さっさと仕事に戻って頂戴」

「かしこまりました」


 マリナは深々と頭を下げて図書館から出て行った。

 そういえば、彼女はなぜ、この場所にいたのだろうか? 少しそのことも気になったが、図書館へ来るのに深い理由などいらないだろう。

 そう片づけて、思考を途切れさせる。


「これはこっちで……あれが……」


 しばらく図書館を開けるのだから、物を整理しておく必要がある。

 それにしばらく、外に出なかったために遠出の時に使うようなものがどこにおいてあるか忘れているということもある。

 こうなってくると、王宮図書館のように司書の一人や二人ぐらい雇ってもいい気がするが、普段であれば自分一人でできる仕事量なので特別、雇わなくてもいい気もする。


「でも、こうもやることが多いと常に一人というのもつらいわね……マリナに手伝ってもらえばよかったかしら……」


 思わずそんなことをつぶやいてしまう。

 しかし、それをやりだしたら彼女ばかりに頼ってしまう気もして、それもどうかと思えてくる。


「大変そうねぇ」

「そうね。というか、まだいたの?」


 ローズが声のした方を向いてみれば、いつの間にか書斎机にフローラが腰かけていた。

 もしかしたら、マリナが言っていた客というのは彼女のことだろうか?


 それにしては、あっさりと発見されすぎではないだろうか?


「まぁいいわぁ。私としては、暇つぶしのためにここにいるわけだし……なんだったら、館長代理ぐらいしましょうか?」

「いえ、別に必要ないわ。あなたに頼んだから、負けのような気がするし」

「あらぁどういう意味かしら?」

「深い意味はないわ」


 フローラはのんびりとした動作で立ち上がるとローズの方へと歩み寄る。


「まぁ気を付けていってらっしゃい……それさえ見送れば私の仕事も終わりだし……おなかすいちゃったから早く帰りたいわぁ」

「はいはい。私ももうすぐ行くのでさっさと帰ってください」

「まぁまぁ私のことは気にないでさっさと準備しちゃいなさい」


 ローズは小さくため息をついて、準備を進める。

 結局、その日の夕方の準備が終わるまでフローラはその場にとどまっていた。

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