第百八十八話 ローズと夕
図書館を出たローズは町へ出ていた。
ほぼ半年ぶりにでる町には、以前にはなかった活気があり、どこか浮かれているような雰囲気であった。
やはり、ニンゲンと戦うことがなくなったということにより、自分たちの方に手が回されるかもしれないという期待感からだろう。
しかし、それもどこまで行くかは定かではない。
実際問題、ノエルやセイヤを信頼していないとかそんなわけではないのだが、これまでの傾向からして欲にまみれなかった人はいなかったし、ニンゲンとの不戦が本当に守られるかどうかわからないからだ。
でも、街の人たちはそんなことは考えていないだろう。
きっと、新しい王が国を良くする。そんな風に思っているはずだ。
そもそも、元メイド長の国王がこんなふうに受け入れられること自体がかなり意外なのだから、これ以上の驚きというのはしばらくないのかもしれない。
「あら、図書館の館長さんじゃない」
そんなことを考えながら町を歩く、ローズに声をかけたのは医者の黒衣夕であった。
彼女はいつも通りの白衣姿で手にはカバンを持っていた。
その姿を見る限り、いつも通り貧民街へ赴いていたのだろうか?
「こんなところで会うなんて珍しいわね」
「えぇそうね。出不精のあなたがこんなところにいるなんて……明日はやりでも振るのかしら?」
心配そうに空を見上げる夕に対して、ローズは小さくため息をついた。
「そんなわけないでしょ。私だって、用事があれば出るわよ……まぁ今日はちゃんとした用事があるわけじゃないけれど……」
「明日は世界滅亡ね……最期に何を」
「いい加減にしてくれるかしら?」
「冗談よ」
夕はくすくすと笑いながら、ローズの顔を見ていた。
「それにしても、いつもは薄暗い図書館だからよくわからないけれど、あなたって結構きれいなのね……むしろ、出ていないから肌がそんなに透き通るような白色になるのかしら?」
「何を言ってるんですかって」
夕はグイッと近寄ってローズの顔を覗き込む。
「本当に若々しいわね……ちょっとうらやましくなるぐらい……そういえば、あなたって初めて会った時から変わらない気がするけれど、魔女だったりするのかしら?」
「……さぁどうかしら?」
よく聞かれる質問だ。
観測者や記録者、預言者はその命を受けた時点でヒトではなくなる。
しかも、引退をしたとしてもヒトに戻ることはなく、世界が存続する限り永遠の生を持ってこの世界を見守る続けることになる。
「あら、隠されると気になっちゃうわね」
夕は興味津々といった様子でローズの姿をとらえていた。
一般的に不老不死と言えば魔女だから、それが真っ先に思い浮かぶのだろう。否、一般人には観測者や記録者、預言者の存在など知る由もなく、大体は歴史や神話の研究をしている学者か何かしらの理由で観測者などと接触したニンゲンぐらいしかその存在を認知していない。
「まぁいいわ。あなたが言いたくないならそれで……」
「えぇ。私も何の理由もなくぶらついているわけじゃないのでこれでお暇するわ」
「あら、さっきは深い意味はないみたいなこと言ってたじゃない……まぁいいわ。私もここでずっと立ち話しってわけにもいかないし」
夕はそういうと、ローズの方へ歩いてきて横を通るときに立ち止まった。
「まさか、あなた観測者か何かかしら?」
その瞬間、ローズの思考が停止した。
なぜ、彼女が観測者の存在を知っているのだろうか? なぜ、当たり前のようにそんなことを口にできるのだろうか?
「まぁいいわ。この答えはまた聞かせてもらうわね」
そう言い残して、夕は颯爽と立ち去っていく。
ローズはしばらくその背中を見つめていた。
「本当になんなのよ……あなたは……」
ただでさえ、少なからずあった夕に対しての疑問は、大きく膨らみ始めたのであった。




