第百八十七話 魔王城の図書館
魔王城の図書館館長のローズは、図書館の中央に設置された書斎机に向かって本を読んでいた。
「はぁ……それにしても退屈ね」
もともと、魔王城図書館を訪れる者は少ない。
魔王城内にあるということもあるのだろうが、魔王城内で働く人々に本を読むという習慣がないというものあるかもしれない。
「まぁ静かなのはいいことだけどね……」
前任の魔王マアサは何かとつけてよくこの場所を訪れていた。
それは、ただ本を読むということではなくローズと談笑するためという方が多かったような気がする。
彼女とはいろいろな話をした。
外の世界のことや自慢の兄のこと、自分の理想の未来のことなど……あまりにも熱く語るので“図書館では静かにしなさい”と何回も言っていた気がする。
静かな図書館……ひたすら本へ向かう日常が戻ってきたのだ。
しかし、何かが物足りない。
誰にも邪魔されずに読書に没頭できる。4代前の魔王に頼み込んで作ってもらった図書館であるし、そもそもの目的がそれだったのだから、これでいいはずだ。
でも、マアサと話をしている方が楽しい。そう思える自分がいた。
「でも……今日はちゃっかり来客がいるみたいだし……」
ローズは、部屋の端……先ほどから、自分の方を探っている気配に視線を向けた。
「あらーばれちゃった?」
その声とともにある一角の景色がゆがんでピンク色の髪の少女が姿を現した。
「やっぱり、あなただったのね? 今度は何の用?」
「まぁいいじゃないですかー別にリーファも来ているみたいですしー」
少女はゆっくりとした動作で来客用のソファーに座る。
「用件を聞かせてくれる?」
「いいじゃなーい。どうせ暇なんでしょ?」
「預言者と話すことなんてないわ」
ローズはパタンと本を閉じた。
「まぁいいじゃなーい。“元”記録者のローズさん」
「……さっさと用事を話してくれるかしら? 預言者フローラ」
フローラと呼ばれた少女は、不満そうな表情を浮かべる。
「まぁいいわ。話は、あなたの後任の記録者のことよー」
「あら、あの子がどうしたの?」
「問題があるんじゃないの? あの記録者」
ローズはフローラをにらむ。
フローラは、平然とした様子でいつの間にか取り出した紅茶に口を付けた。
「図書館内は飲食禁止よ」
「これは失礼したわねーともかく、あのマリーとかいう記録者が必要以上の改ざんをしているっていう話が出ているのよ。本来なら、記録者側が伝えるべきなんでしょうけどね……その辺の火消しで精いっぱいらしくて預言者にこれを伝えるっていう役割が回ってきたのよーこんなこと、観測者にでも任せておけばいいのに……」
「そうね。まぁ話は承ったわ。用事が済んだらさっさと消えなさい」
冷たい口調であしらおうとするローズであるが、フローラはニヤッと笑みを浮かべた。
「素直じゃないわねー話相手がほしいっていうなら、ちゃんとなってあげるって言っているのにー」
「さっさと帰りなさい」
「はいはーい。でも、話相手ならいつでもなるからねー」
その言葉を残して、フローラは桜の花のように散っていく。
「まったく……話相手だなんて……じゃなくて」
ローズは小さくため息をついてからフローラの話の内容を整理する。
そもそも、フローラというのは王宮図書館の館長を務めている人物で記録者でもある。
もともと魔女である彼女は永遠の生に大した抵抗はなく、すぐに受け入れてくれた。
王宮図書館で王国の歴史書を執筆していた彼女は、記録者の仕事にすぐに順応した。
その仕事ぶりや覚えの速さに安心し、当初の予定よりも早く記録者を引退したのだ。
「仕方ないわね……」
フローラは、書類机に“ただ今外出中 本を借りる場合はこの紙に名前と書籍名を書いてください”と書いた羊皮紙を置いて図書館から出て行った。




