第百八十六話 アンジェル、街へ行く
魔王城を望むことができる高台にアンジェルとアリスの姿があった。
「ふーやっとついた」
森の迷宮で思ったよりも時間を食ってしまったが、大きな問題が起こることなくたどり着くことができた。
「それで? アンジェルさんはどうするんですか?」
「えっ私?」
アリスには主に会うという確固たる目的があるが、アンジェルにはそれがなかった。
「まだ、考えてないわね」
「そうですか。だったら、一緒に主のところまで会いに行きませんか?」
「主って、あなたがよく話している?」
「はい。たぶん、旅には出ていないと思うので」
「なるほどね……」
アリスの主……少し気になるところではある。
「そうね……せっかくだから行ってみましょうか」
「はい!」
アリスは笑顔で返事をして、街の方へ向かって飛び始めた。
アンジェルはその背中を追って走り始める。
「ちょっと! 早い! 待ってよ!」
「いえいえ、少し急がないと、主はせっかちな方なので一刻も早く会わないといなくなるかもしれないじゃないですか」
さっきまでまだ、いるはずだから大丈夫だと言っていた気がするが、彼女は一気に町の方へと飛んでいく。
これを見る限り、彼女が早く主に会いたいだけに見える気がするのだが……
いったん息を整えるために立ち止まり、しばらく肩で息をする。
前の方を見ると、アリスがちゃんと待ってくれていた。
「まったく……私ってこんなに体弱かったかしら?」
大きく息をついてから、少し周りを見回してみると丘の上に少女が座っていて、少し強めの風が彼女の淡いピンク色の髪をなでていた。
「アンジェルさん。そろそろ行きませんか?」
一刻も早く先に進みたくて、うずうずしているアリスを見て、アンジェルはそちらの方へと歩み寄っていく。
もう一度、丘の上の方を見てみるとすでに少女の姿はなく、ただ草原が広がるだけだった。
「アンジェルさん! 何やってるんですか!」
「あーごめんごめん、早く行こうか」
アンジェルはアリスの小さな背中を追って走り出した。
*
約1時間ほどをかけて、街にたどり着くとその活気に圧倒された。
まるでお祭りだ。そんな印象を受けた。
誰もかれもが浮かれていて、笑顔だった。
アリスに聞いてみても、時期的に祭りはないはずだという答えが返ってきた。
「一体全体、どうなっているんでしょうか……とりあえず、主のところに急ぎましょう」
「そうね。ところで、どうしてアリスは服の中にいるの?」
彼女は、街の中に入ると同時に服の中に入ったのだ。
そして、今はそこから行先を指示しているという状態である。
「私、妖精ですから。ニンゲンにしても魔族にしてもあまり人の目に触れるのは好ましくないんですよ」
「そうなの?」
「そうなんですよ」
妖精の事情なんて知らないが、なんとなく納得できる。
これまで街で妖精の姿を見るということはなかった。
その理由はよくわからないが、彼女たちには彼女たちなりの事情があるのだろう。
「まぁあなたがそういうのならいいけれど……」
それにしても魔族の街にいるというのにすっかり違和感がない。
強いて言うならば、建物の違いや雰囲気の違い程度だが、そのぐらいの違いはニンゲン側でも旅をしていればいくらでも、見られる程度の変化だ。
「それにしても何があったんだか……」
お祭りがあったとしても浮かれすぎではないだろうか。
街の人々が笑顔で活気があるのはよいことなのだろうが、街全体がそういった雰囲気に飲み込まれてるとなると少し異様だ。
アンジェルがこの騒ぎの正体を知るのはもう少し後のことである……




