第百八十四話 路地裏の出会い
はたして、この世界が向かう方向は正しいのだろうか?
もしかしたら、世界は間違った方向へ向けて進んでいるのではないだろうか?
夜。少し帰りが遅くなってしまったのであろう人々があわただしく家路につく中、リナは当てもなく大通りを歩いていた。
セイヤに王位を継承させないということに関しては成功したのだが、彼が政にかかわっている以上、依頼を完遂したとは言えないだろう。
リーファのいうことが正しければ、この世界は間違った方向へと導かれてしまっている。
それに対して、人々は歓喜しているのだ。
何とも嘆かわしい現状である。
「どうしたものでしょうか……師匠は何にも言ってこないし」
彼女が師匠に言われているのは、ただしばらく暇を出すから町にでも出ていなさいの一言である。
もしかしたら、師匠に捨てられてしまったのではないかと不安になってしまう。
お祭りごとが好きなリナであるが、今日ばかりはこのお祭り騒ぎが不快でたまらなかった。
「よお! そこの姉ちゃん! 湿気た面してどうしたんだい! つまらねーなら、俺と一緒に……ってなんだこりゃ!」
いつの間にか裏通りに入っていたらしい。
リナの肩に手を置いていたナンパ男の身体は足元から凍り始めていた。
「ってめ! 何をしやがる!」
周りにいた仲間と思われる男の一人がリナに殴り掛かるが、リナはそれをよける。
そのころには、殴り掛かった男の氷像が出来上がっていた。
リナがそれをけり倒すと、バリンッという音を立ててバラバラになった。
「今、虫の居所が悪いの。消えて頂戴」
その言葉を聞き届けた男は、顔を真っ青にさせながら逃げて行った。
「はぁ。まったく、なん何だか……」
「そうね。本当になん何だか……白昼堂々殺人事件だなんて」
「誰!」
リナが振り返ると、黒い髪、白い肌、何の感情を読み取れないような表情……人形という言葉がぴったり合いそうな少女が立っていた。
直接会ったことはないが、彼女のことは知っている。
観測者、アルドンサ・マリ・モンテジョル……闇夜の人形遣いの二つ名を持つ少女だ。
「私に何か用?」
「いえ、別に真昼間から殺人事件の証人になってしまったというだけよ……相手を凍らせてバラバラ……そうとういらだっていたみたいね……そんなことはどうでもいいけれど、少し言伝を頼まれてくれるかしら?」
思わずリナは後ずさりしてしまう。
これは、まずい。何をされるかわかったものではない。
「あら、そんなに怖がらなくてもいいわよ……何もしないし、させないから」
彼女が左手を上げるとリナの周りに多数の人形が出現し、彼女の体の自由を奪った。
「逃げなくてもいいじゃない。私は、あなたに危害を加えるつもりなんてないわ。ただ、ちょっと言伝を頼まれてくれって言っているだけじゃない……」
「……断るって言ったら」
「そうね。そこにある愉快なオプジェとちょうどいい具合にまじりあうんじゃないかしら? あなた、氷好きそうだし」
彼女の意図が読めないが、リナは小さくうなづいた。
彼女に逆らってはいけないと頭の中で警鐘がなっていた。
「まぁいいわ。とにかく、伝えて頂戴。“あなたがなすべきことは、それではない。オキムラセイヤのことからは手を引いて”。以上よ。ちゃんと伝えなさい。3日後の同じ時間にここにいるから、答えを伝えて頂戴。それじゃ、せいぜいいい答えを持ってこれるよう健闘することね」
それだけ言い残すと、アルドンサは人形たちとともに光の粒となって消えて行ってしまった。
しばらく呆然と立っていたリナであるが、この場所にとどまるのはまずいと判断し、急いでその場から離れる。
ここは裏通りであるゆえに自警団につかまるなどということはよっぽどかないだろうが、あの男の仲間たちが徒党を組んで襲ってこないとは限らないからだ。
早く、リーファに言伝をしなければならないという焦りも相まって、彼女は足早に裏通りを飛び出していった。




