第百八十一話 青空の丘
州の区割り、行政の制度……多くのことの大枠が決まりつつある。
誠哉は、少し出かけるといって町はずれにある丘へ来ていた。
あまり障害物がないこの場所では風が草をなで、さらさらと音を立てていた。
そんな場所で誠哉は、草原に寝転がって青い空を見つめていた。
「マアサ。見ているか? お前の理想とは程遠いかもしれないけれど、魔族領も変わりつつあるぞ」
「果たしてそうかしらね……」
その声にこたえたのは、マアサではなく観測者、アルドンサ・マリ・モンテジョルである。
「また、お前か……めんどくさいな」
「別に邪魔する気はないわ。ただ、あなたには失敗してもらわないと困るというのは事実ね。ある子とちょっとしたかけをし始めたの。ルールは簡単。あなたが改革に成功するか、観測するっているだけ。ただし、互いに干渉してはいけないっていう制約付きだけどね。おそらく、あの子のことだからこのルールがなければ私が、徹底的に邪魔することが目に見えていたのでしょうね。今考えたら、見事にしてやられたものだわ……」
アルドンサはあいまいな笑みを浮かべながら誠哉の横に座った。
「何のつもりだ?」
「いえ。ただ、ちょっとあなたの考えが知りたくなっただけよ。私たちが観測できるのはそこに起きた出来事だけでそこに感情は存在しないの。だから、たまにそれにかかわる人たちの感情を知りたくなる。だって、私たちには……いえ、私には感情なんてないもの存在しないもの。ただ、呆然と世界を観測するためだけの存在。それが私よ。それが、世界に対し邪魔だと判断すれば、それを排除するだけの存在……それでもね、唐突にニンゲンなんかの感情を知りたくなったりするものなのよ……だから、聞かせて頂戴。どうして、あなたは直接血のつながりのない義妹の為にそこまで尽力することができるのかってことを……」
アルドンサは誠哉の頭上から覆いかぶさるようにその顔をのぞいていた。
「……教えるかよ。めんどくさい」
しかし、誠哉はその顔を押しのけながら上体を起こす。
「あら、どうしたものかしら?」
「知らないよ。感情がないなんてことないんじゃないの? 君は人形であっても物言わぬ機械じゃないでしょ? それにあれが邪魔だそれが邪魔だとか、してやられたとかわかってるんだから、僅かながらにちゃんとした感情を持っているんじゃないの?」
「あら? そんなこと言ったのはあなたが初めてだわ。大体の人は感情のない冷酷な人形なんて言うのに」
「言われたくなかったら言動を見直せ」
不思議そうな顔を浮かべているアルドンサに背を向けて誠哉は丘を下りていく。
それにしても、彼女には少なからず変化が起きているのかもしれない。
最初こそ印象はあまり良くなかったのだが、彼女が一葉が作り出した人形だと知ると今までとは少し違う感情を抱いて接するようになっていたのだ。
それがなんだかよくわからない。しかし、前ほど悪い感情を抱くことはなくなっていた。
「なんなんだろうな」
誠哉のつぶやきは青い空へと吸い込まれていった。
*
誠哉が去った後、アルドンサは浮かべていたあいまいな笑みをふっと引っ込めた。
「計画通りっていうところかしら……ちょろいものね」
そういった瞬間、彼女が浮かべていたのは張り付いたような狂気の笑みである。
「くすくすくすくす。私が本当に邪魔しないなんて思っているのかしら? そんなことあるわけないじゃなとんだお馬鹿さんよね……さて、布石も布いたし今度はどうしてくれようかしら?」
賭け事をしているのは事実だが、妨害を禁止しているなんてことはない。
相手はセイヤの改革が成功するように全力を尽くすだろう。それはこちらも同然で改革が成功しないように徹底的に邪魔するのだ。
これも、その一環である。
「成功なんてさせないわ。とんだ恥さらしの大ばか者としてせいぜい歴史に残るように努力しなさい」
彼女はそんな一言を吐いて、その場から消えた。




