第百七十八話 魔王城の図書館
魔王城の城下町。
そこに建てられた一つの立札に人々が集まっていた。
その中には日本人の黒衣夕の姿もあった。
「おいおい。新しい魔王はノエル様だってよ」
「あんた。ちゃんと読みなさいよ。魔王じゃなくて国王よ」
夕がそれを眺めていると、横から人ごみをかき分けるようにしてリンが姿を現した。
「いやはや。これはこれは結構な人出で……」
彼女はいかにもめんどくさそうに頭をかくと立札に目をやった。
数分後、彼女はほうと声を上げる。
「いやはや。これはこれは面白そうだね。こりゃ決めたのはマアサ様かな」
「そうでしょうね。だって、彼女以外そんなことしそうな人思いつきませんし」
二人は顔を合わせるとにこっと笑顔を浮かべる。
「さて、それじゃ診療所に戻りますか」
「おや、珍しいですね。夕さんが自ら診療所戻ろうだなんて。これは、明日は大雪ですか?」
「そんなことないわ。ただ、ちょっとそんな気になっただけよ」
そういうと、彼女は立札から離れるように人ごみをかき分け始めた。
リンもそれに従うように夕のすぐ後ろを歩き出す。
人ごみを抜けたところでふと、振り向いてみると、そこにはすでに今まで以上の人だかりができていた。
「いやはや。みんな、感心が高いみたいだね。これがいい意味だといいけれど……」
そういうリンの視線は魔王城の方へ向けられていた。
*
ちょうどそんな頃。
魔王城の一角にある図書館に誠哉の姿があった。
「やっと来ましたか」
入って正面にある書斎に座っていた女性が入口に立つ誠哉に声をかける。
栗色の髪はあまり手入れされていないのか、ぼさぼさでとても長く伸びていて、瞳はルビーを思わせるような赤色をしていて、黒縁の眼鏡をかけていた。
この世界において、眼鏡をかけているという人はほとんどいない。
その理由としては、需要があまりないのとそもそも、この世界のニンゲンにその技術がないからだ。
この世界にある眼鏡のほとんどは異世界のニンゲンが持ち込んだものである。
「どうも、あいさつが遅くなってすいません。ボクはオキムラセイヤ。あえて、マアサの兄だと名乗らせてもらいます」
「そうですか。改めまして。私は図書館館長を務めさせていただいているローズです。以後お見知りおきを……まぁ王宮図書館なんかと比べると小さな場所ですが、自由に利用していただいてもいいので……あぁただし、本を持ち出すときには私に一声かけてください。物によっては図書館から出すべきではないときもありますので……一応、説明はこれでいいかしら?」
「はい。ありがとうございます。それでは、さっそく……」
実をいうと、図書館を利用するのは二回目である。
一回目はというと、この世界に初めて召喚された日のことだ。
その時に逃げ回って偶然、たどり着いたのがこの図書館だったのだ。
誠哉は、そこでちょっとした方法で魔道書をちゃっかり一冊を持ち出しているのだ。
わきに抱えていた魔道書をローズに差し出すと、彼女は無表情でそれを受け取った。
「はぁ返却期間は一週間だって決めてるんだけどね……延滞金でもとろうかしら?」
「それは勘弁してくださいよ。ここに近づけなかったんですから……」
誠哉の真剣そうな表情を見て、ローズはクスクスと笑い声をあげる。
「冗談よ冗談。一週間なんてあくまで目安だし。昔ならともかく、今はそんな日本を借りに来る人もいないわ。だから、多少延長してても気にしないから安心して頂戴」
そういうと、彼女は右手で魔道書を抱え、左手をひらひらと振りながら書斎机の方へと戻っていく。
誠哉はその後ろ姿を少しばかり見た後、クルリと踵を返して図書館を後にした。
読んでいただきありがとうございます。
昨日は更新できなくて申し訳ございませんでした。
近頃、いろいろと忙しくて、これからも今まで通りの投稿ペースを保つのは難しくなっています。
これからもできる限り、時間を見つけて書いていきたいと思っていますのでこれからもよろしくお願いします。




