第百七十七話 新しい国の名
ノエルがマアサの立場を継ぐと発表した次の日。
魔王城内はとてつもなくあわただしかった。
構造を大きく改革するとはいえ、それをしばらくノエルがすべての指揮を執るためにそれを示すための準備が中心だ。
ただ、魔王ではないので就任式やらなんやらはカットして、国中に魔王の称号の廃止及びノエルが暫定の王であると知らしめる必要性が出てきているのだ。
もちろん、制度の整備がきっちり整えばその上でノエルには改めて王に就任してもらう予定である。
このような形にしたのは、この世界において数少ない形である制度を導入するにあたって大きな混乱を起こさずにことをスムーズに運ぶためだ。
この情報の発信とと同時に新しい国の名前も知らせるためにノエルの執務室にはノエルや誠哉、マリーを始めとしたノエルに比較的近い人物が集められて最終協議が開かれていた。
円卓を皆で囲んでいる中、最初に発言したのは誠哉だ。
「まぁボクから言わせてもらうと、新しい国の名前は豊歌国なんかどうかな? 一応、日本の言葉を組み合わせたものなんだけれども、豊は豊穣や豊、豊満なんて言葉に使われていて、作物がたくさん実だとか、たくさんあるなんて意味を持っているんだ。だから、豊かさを謳歌する国。平和で豊かな国になってほしいと思うから、ボクはこれを提案するよ」
「なるほど……でも、少しこちらとしては理解しがたいところがありますね。こちらの世界にある国ですから、ニホンのことばの組み合わせのようなことは避けた方がいいかもしれません」
「そうか……確かに面倒だけど、そうかもしれないね」
ノエルの言うことはもっともなので誠哉はおとなしく引き下がる。
実際問題、誠哉が此方の言葉を知らないのでそうなってしまうのだが、それでも一つ提案ができたので良しとすべきだろう。
誠哉が勝手に一人納得していると、続いてマリーが提案をしていた。
その後も、ずっと活発な議論が交わされ、時間ぎりぎりまでずっと話し合いは続いていた。
それも終わりを告げようとしていたその時、ノエルが声を発した。
「……マアサ国。これでどうでしょうか? そもそも、この国の立ち上げにはマアサ様が生涯をかけていたといっても過言ではありません。それに、マアサ様のおかげで今があるのです。だったら、マアサ様の名前を使わせていただくぐらいよろしいのではないでしょうか?」
その提案にその場がいったん静まった。
5分もすると、ぱちぱちと拍手の音が聞こえ始めた。
「同意だ。確かにマアサ様の名前を関する方が良いかもしれないの」
「確かにそうですね」
ところどころ同意の声が聞こえてくる。
それに伴う形で誠哉も拍手をし始めた。
「全会一致とみなします。新しい国の名前はマアサ国。これを全土に発布してください。魔族領という呼び名は廃し、マアサ国と呼ぶと」
「はっ!」
円卓のそばに控えていた兵士が部屋から飛び出していく。
マアサ国、なんだか複雑な思いがするが、皆がそれで一致しているのだから、これがいいのだろう。
「それでは散会とします。次回、集まる日程はまた、伝えますのでそれに従ってください」
「はい」
ノエルが立ち上がり、退室したのを合図に次ぎ次と集まった人々が退室していった。
「セイヤ様」
それにならって部屋を出ようとした誠哉に話しかけたのはマリーだ。
「どうしたの?」
「ちょっと、いいですか? 出来れば、二人で話したいのですが」
「わかった。あとで時間をつくるよ」
「はい。お願いします」
誠哉はそう言って部屋から出て行った。




