第百七十六話 二つの希望的観測
執務室を出た誠哉はマリナとともに廊下を歩いていた。
ノエルは、しばらく自室で寝るといってすでに姿を消している。
「セイヤ様」
「どうしたの?」
話しかけられた誠哉は立ち止まってマリナの方を向いた。
「あの……セイヤ様は、もともと私を探していたんですよね?」
「あーそういえばそうだね」
「その……聞きたいことがあるんですけれどもいいですか?」
誠哉は小さく首を縦に振った。
それを肯定ととったマリナは、意を決したように小さくうなづいた。
「あの、私ってどういう人だったんですか? 記憶なくす前は、どんな人とどんなふうに過ごしていたとかわかりますか?」
ある意味予想通りの質問だが、もっとも答えに困る質問だ。
誠哉は、少し空を仰いで考えたが、素直に話すべきだと結論を出した。
「……残念ながら、ボクが知っているのは君が先代勇者で王宮の近衛兵長だってことぐらいだ。面倒なことにこれは、王宮から受けた依頼でね。急に失踪したから探してくれって言われただけだよ。まぁ本来なら、君を連れて行かなければならないんだけど、この場合はさすがにそうするわけにもいかないからね。まぁ失敗したところで何かある依頼でもないし、しばらく王宮に行く必要もないから君はここにいていいと思うよ。というよりもここにいるべきだ。正直言うと、聞いていた特徴といろいろ違う。まぁそれを伝えて混乱しても困るだろう。だから、面倒かもしれないけれど、君はここにいてくれ。時期が来たら、ちゃんとそのあたりの話もするつもりだ」
「そうですか……」
誠哉がそう話すと、マリナは少し残念そうにいていた。
しかし、話に聞いていた彼女と今目の前にいる彼女が別人のようであるというのは事実であるため、こうするのが正解だと思っている。
「さぁマリナ。急ごうか」
「はい」
誠哉が声をかけると、マリナは笑顔で返事をして歩き出す。
これから忙しくなるだろう。新しい国の展望を色々と考えながら、誠哉は空を望む。
明日の朝になれば、ノエルが新しい国の名前について答えを出すはずである。
誠哉とノエルは、どことなく明るい魔王城の廊下を進んでいった。
*
天界の一角にある広場。
そこにある椅子に座っているのは、アルドンサとオリーブである。
「久しぶりね。オリーブ……どういう風の吹き回しかしら?」
「別に深い意味はないわね。ただ、しいて言うならばあなたが、新しい国の誕生にどう干渉するか気になったってところかしらね」
アルドンサがパチンと指を鳴らすと二人分の紅茶が現れる。
アルドンサは、そのうち一方を口に含んだ。
「そうね。今回はほっておくつもりよ。セイヤが関わってるっていうのもあるけれど、あれは捨て置いても何の影響もないわ。どうせ、改革なんて進めようとしたところで内部から崩壊するにきまってるわ」
「そう? あなたはいつから預言者になったのかしらね? そんなもの、観測してみないとわからないじゃない」
「別に預言者になったつもりはないわ。ただ、これまでの歴史はそういったものの繰り返しだったっていう話よ」
冷めた表情で紅茶を飲むアルドンサの姿を見て、オリーブは笑い声をあげた。
「何かおかしいの?」
「えぇ最高におかしいわ。あなたは、セイヤのこと良くわかってないわ。きっと、セイヤならやるわよ。だって、ノエルっていう強力な見方までいるんだもの。きっと、あなたの希望的観測は外れるわ」
オリーブがひとしきり笑い終えるころには、アルドンサはティーカップを砕いていた。
「だったら、あなたも目ん玉をほじくってよく見てなさい。あのオキムラセイヤが地に落ちるさまを」
「そうね。あまり、ここにいるのは気分はよくないけれど、この議論の決着をきっちりつけるためにしばらくここにいようかしらね」
オリーブは、余裕の笑みを浮かべながらアルドンサの出した紅茶に口を付けた。




