第百七十五話 新たな区割り
謁見の間を後にしたノエルは執務室に帰るなり大きく息を吐いた。
「さすがに疲れたわ」
見ているだけでは、わからないがあそこで話をするというのは以外と精神力を消耗するようだ。
ノエルは普段の姿からは考えられないほどだらけていた。
「そういえばセイヤ様」
「誠哉でいいよ。面倒かもしれないけれど実際問題、ノエルの方が立場が上でしょ?」
「それもそうですね。ともかく、マアサ様がお城をちょこちょこ抜け出すのをとがめてましたが、実際にこの立場になってみるとお気持ちがよくわかるというかなんというか……」
こんなことを言っているところを見ると、いつか彼女自身城を抜け出してふらふらするのではと心配になってしまうが、それはそれでいいかもしれない。
あまり危険なことに首を突っ込まない限り、国の現状を知るという意味でもそういった行為は重要だからだ。
「まぁ出るとしてもほどほどにしてくださいね。面倒ですから」
「わかってますよ。探す側の苦労はよく知っていますので……」
その時、誰かが扉をノックした。
ノエルは姿勢を正すと、その人物に対し中に入るように促す。
「失礼します」
そう言って、部屋に入ってきたのは新メイド長のマリナだった。
彼女にメイド長をやらせるのは早いと本人を含めて言っていたのだが、ノエルが一番信が置けるとして任命したのだ。
そもそも、現状ではメイド長は肩書だけであり仕事自体は各班長が指示をだし行うという形に変更し、メイド長の仕事自体はノエルの身の回りの世話に限っている。
それもあってか、この話に対する反対意見はすぐに静まった。
「頼まれていたものをお持ちしました」
そういうと、マリナは執務室の卓上に大きな地図を広げた。
それは、魔族領の全体が書かれているもので、三方が海に囲まれ唯一東側の一部が森の迷宮によりニンゲン側の国と陸続きになっている。
迷宮以外は高い山脈であり、普通に考えればそこを超えていくのは難しいだろう。
やはり、魔族領への出入りは迷宮が中心となる。別段、海上を通るルートというのもあり得るのだが、この世界の技術水準を考えるとあまり推奨すべきではないだろう。
そう考えると、他国との交易というのは考えずに自国内ですべてをまかなう必要性が出てくる。
さて、軽く現状を説明したわけであるが、誠哉たちがこれを用意させた理由は魔族領全体の把握と議会制を取り入れた場合の選挙区割り、および行政区域の線引きだ。
面積でいえば、日本列島の1.5倍ほどの大きさながら、事前調査で判明した人口は一部地域に密集している。また、海の方に話を移すと三方を海に囲まれているのに加え、その海上に浮かぶ島ほとんどが無人島ながらこの階層の端まですべて魔族領だ。
ニンゲン側はどうかと言えば、ほぼ同じ面積に120もの小国が混在しているのだから、魔族領の大きさがうかがえる。
「やはり、区割りするとすれば大きな町を中心に山脈などで区切るべきでしょうか?」
「そうだね。面倒だけど、とりあえず州は地方名をそのまま流用してもいいと思う」
しかしながら驚いたのは、魔族領において州、県、市などの区分けはされておらず、○○地方の××の町の近くにある△△村なんて言い方をしていたことだ。
誠哉としては、このままではやりづらいと感じたための提案である。
これらを定着させるためには長い時間を要するだろう。それ故に早く決めたかったのだ。
「それにしても、法律や制度よりも先に区割りとは……」
「まぁ確かに疑問に思うかもしれないけれど、ボクとしてはここからすべての状況を判断して的確に指示を出すのは難しいともう。だから、各行政の長にある程度の権限を与えて、国としての決まりを彼らに広めてもらう。または、彼らが各地域ごとにその土地に合った施策を実行する。それがボクの理想の形だ。それと、これが一番重要なんだけれども、新しい国の名前も考えないといけないよね」
「そうですね。でしたら、この案に関しては、じっくりと検討いたしましょうか」
「そうだね」
こうして、誠哉とノエルの国づくりは始まったのだ。




