第百七十四話 謁見の間にて
魔王城の謁見の間。
ここは、魔族領において重要な決定が下されるときに使用される場所だ。
少し高くなったところに設置された玉座に座るのは魔王城前メイド長ノエルだ。
本来、そこに座るべきではない人物がいることに対して室内はかなりのざわつきに包まれていた。
「静粛に」
ノエルが声をかけるとざわついていた謁見の間が一気に静まりかえる。
「……一部の方は知っていると思いますが、マアサ様は後継に私を指名しました。また、本日をもって魔王という称号は廃止し、魔族領は一つの国として新たに再編します。メイドという立場にありながら、このような役目を仰せつかるのは異例でありますが、マアサ様のご意志であるということを明確に宣言させていただきます」
余計な邪魔が入らないようにと極秘に準備を進めていたため、今この場でそのことを知ったという者が大半であろう。
ノエルの横に立つ誠哉は、じっくりと皆の反応を観察していた。
「失礼ながらノエル殿。よろしいでしょうか?」
そんな中で立ち上がったのは、白いひげを長く伸ばした古参の臣下である。
「どうぞ」
「なぜ、魔王の位を廃そうとお考えかお教えいただきたい。場合によっては歴代魔王に対する冒涜に過ぎないのではないか?」
ごもっともな指摘であろう。
でるべくして出た意見だ。当然ながら、ノエルもそれの答えぐらいは持ち合わせている。
「マアサ様の遺言です。私とセイヤにあてた手紙にその旨が書かれていました。ご心配でしたら、あとでお見せいたします。また、マアサ様は何も歴代魔王を冒涜しようなどというお考えではありません。ニンゲンと魔族が本当の意味で分かり合える世界。その理想の実現のためには勇者と魔王が戦うという関係のリセットから始めなければならないというのがマアサ様のお考えです。私もそれに同意し、このようなことを言っているのです」
会場に衝撃が走り、謁見の間のざわつきはさらに増した。
普段は冷静沈着であろう臣下たちの顔には困惑の色が濃く出ている。
「しかし! いくらそうと言っても魔王の位を廃すなど、ニンゲンどもの思うつぼです!」
どこからかそんな声が上がる。
「本当にそう思っているのですか?」
それに対して反応したのは他でもないノエルだ。
「ニンゲン側からすれば、魔王が居なくなり魔族がニンゲンに脅威を及ぼさないとすれば、わざわざ手間をかけて勇者を探し出す必要性がなるなります。そもそも、魔王が居なくなったところで魔族が存続するのですから、領土を求めて大挙して押し寄せるということもないでしょう。それとも、ニンゲンが魔族が負けたと思うことが悔しいのですか?」
「そっそれは……」
「答えてください」
ノエルが迫ると、発言した男性は委縮したように縮こまってしまった。
この後も多数の反対意見が出たが、それをノエルは華麗にかわしていく。
こう見ていると、やはり魔王城内も利権の塊なのだと感じてしまう。
魔王が存在することによって、または人間と魔族が戦うことによって何かしらの利益がある者は猛烈に反対しているようだ。
その一方で伝統の面で魔王の廃止を唱える者やニンゲンと魔族の融和という意味でこの決定に賛成する者もいるが、それはごく少数である。
しかし、どの反対意見に対してもノエルは的確な答えを返すために徐々に反対意見はでなくなっていった。
「ほかに意見のあるものは?」
始まってから5時間ほどが経過し、すでに発言者はいない。
これで良しと判断したノエルは、立ち上がった。
「最後に一つよろしいですか?」
その時である。
一人の女性が恐る恐る手を挙げた。
「どうぞ」
「なぜ、あなた様はわざわざ皆の意見をお聞きになり、お答えになられるのでしょうか? その、私共の意見など無視してかまわないと思うのですが……」
「そんなことですか。私は国を治める代表であり“魔王”ではありません。後々に制度は整備していくつもりですが、私は皆と快活に議論を交わしながら国づくりをしていきたい。そう思っています」
ノエルはそう言い残して謁見の間を後にする。
それについて、誠哉も謁見の間から出て行った。




