王都編 エピローグ
森の迷宮と呼ばれている深い森の前にある広場。
そこに一人の少女……アンジェルがいた。
彼女が背負う荷物には、たくさんの食料や野宿の道具などが詰まっていた。
先の魔王が倒れたことや魔物が最近、迷宮内を闊歩しているという噂が広まっている関係で以前よりも迷宮に入るものは減り、一昔前までは迷宮下層を目指す冒険者であふれかえった広場にはアンジェルただ一人しかいない。
そもそも、今代勇者の時代からこういった状態らしいので必ずしも先に挙げた理由だけが原因ということはないだろう。
アンジェルは、その深い森を見つめると決意を固めたように小さくうなづいた。
「よし。行こう」
周りには誰もいなく、その声を聞き届ける者はいないが、誰かから返事がもらえた気がする。
アンジェルは、迷宮に向けて一歩を踏み出した。
*
魔王城の一室。
かつて、マアサの部屋として使われていたそこでは片づけが行われていた。
彼女が生前、何かを収集していたりというわけではないのだが、それでも荷物というのはものすごい量である。
「これは、保管庫へ。これは、焼却してください」
ノエルがてきぱきと指示をだしメイドたちもそれに従う。
誠哉は立会人として、その様子を見ていた。
半日かけて、荷物がなくなると、今度は大掃除が始まる。
保管された物の大半がマアサの私物である一方で焼却や廃棄された物が魔王を象徴するようなものだというところを見ると、本格的に魔王が存在するという時代を終わらせるのだということがわかる。
「意外と広い部屋なんだな」
「えぇ。マアサ様はあまり片づけをなさらない方だったので……もともと、私物自体は少ないので足の踏み場がないなんてことはありませんでしたが……」
「そうなんだ」
義理とはいえ妹なのにそんなことすら知らなかったと今頃ながら思う。
「セイヤ様。片づけを終えたばかりであれかもしれませんが、例の件について公表方法などについて検討したいのであとでよろしいですか?」
「あぁあれか。いいよ」
そして、こちらもそうだ。
ついにいろいろと動き始めようとしている。
魔王が存在しなくなり、魔族とニンゲンが本当の意味で分かり合える時代。それを望んでのことだが、変な誤解を受けないように細心の注意を払わないといけない。
自分がまた、旅に出られるのはずっと先だろうなと誠哉はガラリとした部屋を見て思った。
*
王宮内に存在する王宮図書館。
そこの館長を務めるマリーは今日も羽ペンを片手に歴史を書きつづっていた。
「ふふ……そろそろ、アンジェルが迷宮についたころかしら……」
誰もいない夜中の図書館で響くのは何とも楽しげな彼女の声であった。
彼女の言葉に対して返事をする者はいない。
あるのはただただ深い暗闇のみである。
「ふふふ……私が正しいの。私が書いた歴史が正しいのよ。異論は認めないわ」
マリーは横に柴の手によってまとめられた、マリーの歴史書と異なる記述があるという報告書に炎系統の魔法をかけて火をつけた。
「これで、正しくない歴史はなくなりました」
そういうと、再び羽ペンを手に取った。
*
かつて、世界に存在する国は一つだった。
だが、次第に考え方の違いや言語などの違いで分裂していった。
一つできてはまた分裂し、一つできてはまたバラバラになる……気づけば、世界はたくさんの小国で構成され始めていた。
私がこれを記している時点では、皮肉にも一国の面積よりも魔族領の方が大きいといった事態へ発展してしまっているのだ。
そもそもなぜ、言語の違いなどが生じてしまったのか、なぜ国を左右するほど考え方が違ってきてしまったのか。
それは誰にもわからない。
そして、また一つの国が誕生する。
しかし、それは人間の国ではない。魔族の国だ。
国王は魔族ではない。ただの一介の魔族だという。
はたして、この国はいつまでひとつであり続けるのだろうか。
---王宮図書館 王国近代史15巻より抜粋
読んでいただきありがとうございます。
王都編はこの話で終了し、次回からは建国編に入る予定です。
これからもよろしくお願いします。




