第百七十三話 アルドンサの考え
「私たちとしては、出過ぎた杭というのはあなた。そして、先代勇者のことだと考えているわ。あなたの知識、考え方はこの世界を大きく改変する。彼女もそれに然り……でも、世界はそれをどうしても受け取れないの」
アルドンサは、冷たい笑みを浮かべていた。
「少年、オキムラセイヤ。ただの観察対象だったけれど、あなたはこの世界を知っている。そして、この世界の仕組みを変えられる立場に立とうとしている。何の運命、先代勇者も記憶という名の呪いに縛られることなく、世界を改変出来うる立場に立とうとしている……観測者として見逃せないわ」
「面倒だな、世界は変わるものだと思うよ? 変わらないのはニンゲンだけ。それにその変化を受け入れるかどうか決めるのはニンゲンでしょ?」
「……変化はこの世界には必要ないわ。これは私のみではなく、観測者のいや、神の意志。天界はこの世界のこれ以上の変化を望んでいない。今の世界は、バランスが取れている。ニンゲンと魔族がそれぞれ均衡を保っている現状がニンゲンたちにとって幸せなのよ。だから、あなたには魔族領から素直に出て行ってもらいたいの。もちろん、先代勇者を連れてね」
アルドンサの言葉を聞いた誠哉は小さくため息をついて、頭をかいた。
「……面倒なことに改革っていうのはいつか起きるものでしょ。観測者はそれをいちいち取り除くつもりか? 魔族領内でも格差がある。貧民街で明日もわからない暮らしをしている者もいるし、そうじゃないものもいる。貧しい人に手を伸ばす制度ぐらいあってもいい時期にある。ニンゲン側ではそれがもっとひどい。それは変えるべきだとボクは思う」
「…………きれいごとをぬかしているんじゃないわよ。いつの時代も為政者……中でも改革者と呼ばれるものは裏で汚いことに手を染めているものよ。改革による弊害なんて隠してしまおうと考える。そうじゃないと自分の考えが通らないから。だったら、いっそのこと変化がないようにしてしまえばいい。どれだけ高尚な夢を語ろうが、結局現実は変わらないと思い知らせればいい。それがニンゲンのためなんだから」
アルドンサの表情は真剣そのものだ。
それに対し、誠哉はいつも通りどこかめんどくさそうな表情である。
「それは、ニンゲン側の不都合じゃなくて、お前ら観測者の不都合の方が大きいからそう言っているんじゃないのか? 今のままなら、観測者のいいようにできる。だから、このまま変わらない方がいい。そうなんじゃないのか?」
「……それは、確かにそれもあるわ。でも、私は」
「本当にニンゲンや魔族のことを考えているのか? 今は、観測者にとって支配がしやすいからそう言っているだけだろ」
観測者は、国のトップとコネクトを持っているらしい。
オリーブが言うには、自分たちが直接介入するほどでもないと判断した場合はそれぞれの国のトップを動かして、対処させるという方法をとっているようだ。
誠哉があの手紙を読んだ後、誠哉の頭の中をよぎったのは日本の政治制度、議会制民主主義だ。
そうなると、観測者は長きにわたって国のトップとつながりを持つのが難しくなる。
一人の人物が長い期間国を治めるということがなくなるというのは、観測者にとっては大きな損失だ。
ましてや、魔族領初の制度だとはいえ、いったんニンゲン国側に広がれば、一気に広がる可能性がある。
彼女たちとしては、それをどうしても排除したいのだろう。
「どちらにしても、改革を望むかどうかは民衆が決めることだ。君たち観測者が勝手に決めることじゃないと思うけど」
「そう。だったら、やってみなさい。本当にそれが受け入れられるかどうか、見させてもらうわ」
そういうと、意味深な笑みを浮かべたアルドンサは、光の粉となって消えて行った。




