第百七十一話 オリーブの話
誠哉たちが目を覚ますと、元の魔王城の廊下にいた。
傍らにはノエルもいて、皆、無事のようだ。
「ノエル。大丈夫か?」
「はい。お二方はどうですか?」
「ボクは問題ないよ。ただ、マリナには精神的に来るものがあったかもね」
誠哉はマリナに目を向ける。
「いえ、その……私は大丈夫です」
そういう彼女の目はゆらいでいた。
あの場においてほとんど発言せず、ただ茫然と立っていた彼女はやはり、彼女の言葉の真意を探っているのだろうか?
「どうしたんですか?」
「……相手、観測者だったんですけれどもね。面倒なことにマリナに対して面と向かって先代勇者だって言ったわけで……まぁこちらとしては確証が取れたからいいんですけれども……」
「確かにマリナにはくるものがあるでしょうね」
ノエルの言葉に誠哉は小さくうなづいた。
「まぁ今後のことは、私が引き受けます。セイヤ様は別のメイドに部屋まで案内させるので少々お待ちください」
「わかったよ。ここで待っていればいいんだよね?」
「はい」
そういうと、ノエルは頭を下げて去って行った。
それにしても妙である。いつもなら、ここでアルドンサが出てきてもいささか不思議ではないのだが、彼女が現れる気配はなかった。
「観測者と会ってたんですね。セイヤさん」
廊下で立っている誠哉にどこからともなく現れたオリーブが声をかけた。
「オリーブか……なんというか、観測者では人の後ろに突然、現れるのが流行っているのか?」
「残念ながら、私はも観測者じゃないわね。そんなことはさておいて、さっきまでの空間のゆがみを見る限り、来たのはアルドンサ・マリ・モンテジョルじゃなくて、『言語の支配者』ソフィ・ロール・ロパルツってところだね。まぁその空間中にアルドンサがいる気配もうすうすながら感じていたけれど……」
「言語の支配者?」
彼女がここまで状況を見抜いていることもそうだが、ソフィの二つ名の方が気になってならなかった。
「彼女が何か命令した時、自分の意志とは関係なしに身体がうごいたりしなかった? 消えろって言われて実際に言葉通りに消えてしまったりは? 一つでも思い当れば、彼女の能力をもろに受けていたことになるわ」
オリーブが語ったことには思い当たる部分がいくつもあった。
彼女が断定したような口調はすべて現実となって実現している。つまりは、あれは何かの魔法を使ってそれっぽく見せていたわけではなく、あれ自体が彼女の能力であり魔法であるということだろうか?
「となると、結構めんどくさそうだね」
「そうね。でも、割と欠点もあるみたいね。もちろん声が出なければ何も起きないし、相手に言語が通じなくても意味がないみたい。まぁ後者は彼女自身が観測者だからクリアしているでしょうけれど……それにやれることに対しては、一定の制限があるらしいわね」
さすが、元観測者と言ったところだろうか?
一応、観測者のことは詳しいようだ。
それはさておいて、オリーブがいう一定の制限というのはある程度想像ができる。
恐らく、彼女は生命に直接かかわることは命令できないのだろう。たとえば、誠哉がじゃまであれば、死ねと言ってしまえばいいのだ。しかし、彼女はそれをしなかった。
単純にしたくなかった可能性もあるが、言動からして戦闘なしで楽に勝とうと思っていた彼女のことだ。
そのようなカードがあれば、使わない方がおかしいだろう。
それと、先代勇者……いや、マリナに対してこちらに来いなどという命令を下さなかったのも気になる。
これに関してもある一定の制約があってのことと考えていいだろう。
「ありがとうオリーブ。いろいろ参考になったよ」
「そうだったらいいわ。観測者は結構、しつこいから気を付けるのね……特にソフィはね。それじゃ、一足先だけど私は迷宮に帰るわ。メイド長によろしく伝えて頂戴」
そういうと、オリーブは無数の緑色の光となって消えて行った。
そうして魔王城の廊下には誠哉だけが残されたのだった。




