第百六十八話 絵柄陣取りゲーム(開始)
「そのまま“動かないで”」
そう言ってから、誠哉の方へと歩み寄ってきたソフィはポケットから何枚かのカードを取り出した。
「その物騒なものを“しまいなさい”」
誠哉の手元からナイフが消える。
「何のつもりだ?」
「私とカードで遊ぶんだよ? そんなの使わないでしょ? ただし、負けたらどうなっちゃうか知らないけどね。きひひひひ」
ソフィはその見た目にそぐわぬ不気味な笑みを浮かべながら指をパチンと鳴らす。
すると、同時に部屋の中央に大きな机が出現した。
「別にドンパチ打ち合っているだけが私たちの戦いじゃないのよ。そもそも、私としてはあまり先代勇者には興味はないんだよね。ただ、あるお方が大変興味を持たれているから仕方なくってやつだよ。きひひひひ。だから、奪還するシーンぐらいは楽しくやりたいわけさ。まぁこんな趣旨なわけだから、このゲームの賞品は先代勇者。完璧でしょ?」
「結構な趣味で……どうせ、面倒なことにやらないとは言わせてくれないんだろ? ルールは?」
誠哉が問うと、ソフィはカードをひらひらとさせながら笑う。
「簡単よ。ゲーム名は絵柄陣取りゲーム。カードは全部で50枚。同じ絵柄のものが二つずつ入っているの。カードを並べた後に5分間カードを見ることができる。そして、それをすべて裏返した後にあなたと私が順番にカードをめくり、めくった二枚の絵柄があっていたらマークとなる石を置き表向きで置いておく。また、自分がとったカードで相手がとっているカードを囲んだ場合、そのカード自体とそれと対になるカードを手に入れることができる。どう簡単でしょう?」
「なるほど……大体わかったよ」
誠哉の中ではこのゲームは神経衰弱に陣取りゲームの要素を組み込んだものとして理解された。
「つまりは、最後に一番カードを持っていた人の勝ちってことでいいのかな?」
「きひひ、そうだね。それじゃ、理解してくれたようだし、さっそく始めようっか」
彼女がカードを宙にばらまくとカードは中心をあけて7×7ずつ並んでいく。
列からあふれた二枚はそれぞれ誠哉とソフィの前におかれる。
「……さて、審判を呼ぼうか。一応、私も参加者だ。審理のことでごちゃごちゃ言われてはきりがない」
「そうね。私もその意見には同意するわ。でも、どうしてこんなつまらないものの侵犯などしなくてはいけないのかしら?」
ソフィの言葉に呼応するように登場したのは、つまらなそうな表情を浮かべたアルドンサだ。
彼女は、いかにもめんどくさいですと全身で表現しながら二人の中央に立つ。
「それじゃ、今から私がカードをめくるから、5分間見なさい。せいぜい、じっくりと戦略を立てることね。ただし、この間は一切口をきくことを禁ずるわ。黙って、見ていなさい。それじゃ、カードオープン」
アルドンサが指をパチンと鳴らすと、カードが一斉に表向きへと変わった。
誠哉は端の方から順番にカードを見て行き、必死に記憶に残そうとするが、トランプとは違いすべて絵札のため、その作業は難航を極めていた。
無情にも時間は矢のように過ぎ去っていく。
「5分経過。カードを戻すわ」
彼女のそんな声がかかるまではあっという間だった。
「勝利の定義を確認するわ。カードはすべてで25組、このうちの26組以上を保有していたものが勝ちとします。仮に互いに25組の場合、この勝負は引き分けとし、決戦ルールへと移行いたします。また、審判が不正行為だと判断するような行動をとった場合はその時点で負けとします。具体的には、カードの表に何が描かれているかわかるようにするなどがそれに該当します。以上、先攻後攻はじゃんけんで決めてください」
カードの内容を記憶にとどめておくことに必死でアルドンサの言葉があまり入ってこなかったが、なんとなく概要は理解できた。
それにしても、このタイミングでのルールの詳細説明というのはいかがなものか。事前に聞かなかった誠哉にも問題があるのかもしれないが……
ソフィとじゃんけんをし、先攻はソフィに決定した。
「それでは、開始」
アルドンサの声が響いたのと同時に勝負の火ぶたは切って落とされたのだった。




