第百六十七話 先代勇者と観測者
誠哉たちが駆け付けるとマリナが栗毛の女性に襲われていていた。
マリナは手に持っていたほうきを振るが、女性はいとも簡単によける。
「誰なんですか! あなたは!」
「きひひ、とぼけないでほしいんだな。セリアァ。もう忘れちまったのかい?」
女性は特に何かをするというわけでもなく、刀を抜刀したままただマリナの攻撃をよけるだけだ。
「待ちなさい!」
そんな二人の間にノエルが割って入った。
ノエルは、どこからか取り出した短刀を抜く。
「あなたは、どこの誰でしょうか? 私の記憶ではあなたのようなお客様を出迎えた記憶はございません。仮にお客様だとしても私の部下に危害をもたらすようではお帰り願います」
「……メイド長か。私はあなたには用はないんだよ。私はそこでメイド服着ている先代勇者に話があるの。先代の勇者にね。だから、無関係のあなたはとっとと、“消えなさい”」
「何を言って! って、えっ!?」
彼女の言葉に従うようにノエルの体が透けていき、光の粉となって消えて行った。
「初めましてなんだよオキムラセイヤ。我が名はソフィ・ロール・ロパルツ。観測者だよ。きひひひひ」
ソフィ・ロール・ロパルツと名乗った少女は、感情の色がない瞳で誠哉を見つめる。
「ちなみに私らを裏切ったオリーブ・ラン・プランターは序列第五位。対して私は第三位。参考程度なんだけど、覚えているかどうかは別として貴様が勝利したマリーズ・アドリーヌ・エルプは序列第八位。観測者最弱なんだよね。それがわかったところであなたはどうするべきかわかる?」
彼女は余裕綽々と言った笑みを浮かべていた。
誠哉は、懐からナイフを取り出した。
彼女は誠哉が一番接触しているアルドンサについて何も言わなかった。
彼女の言いぐさからしてアルドンサの序列が自分よりも下であれば自慢げに語るであろう。
しかし、それはなかった。ということは、アルドンサは少なくとも彼女よりも上……第一位か第二位という位置にいるはずだ。
だからと言って、彼女に必ず勝てるというわけではないが、絶対的に不利ではないということで間違いないだろう。
「そうか。あくまで戦うか……きひひひひ、じゃあ死刑執行だね。世界反転。私の世界に“誘われよ”」
彼女の言葉とともにあたりは、光に包まれ誠哉は意識を手放した。
*
「ここは?」
誠哉はゆっくりと体を起こして周りを見回した。
壁や床は隣接するタイルごとに異なる色が塗られており、全体的にカラフルな印象を受けた。
床にはおもちゃの汽車やぬいぐるみなどが散乱しており、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような場所だという印象を受けた。
横を見れば、マリナが倒れているのが見えた。
「マリナ! マリナ!」
「……セイヤさん? ここは……」
マリナもゆっくりと体を起こして周りを見ていた。
「目、覚めた?」
その時である。
姿を現したソフィ・ロール・ロパルツは身長は小学生と見まごうほど小さくなり、黒を基調としたひらひら付きのドレス、頭には黒いバラの髪飾りというようないわゆるゴスロリと呼ばれるような服装に変わっていた。
「きひひひひ、ようこそ私の世界へ。歓迎してあげるよ。ただし、ここへの切符は片道切符だから帰れわきゃないけどね」
ソフィは不気味な笑みを浮かべた。
それを見たマリーが少しずつ後退するが、彼女の後ろに出現した柵によってそれは阻止されてしまった。
「だめだなぁ。逃げちゃぁ。私と遊びましょう? それにここからは逃げられないし……観測者による観測者のための世界。私が遊ぶための世界。私の遊び場。ねぇあなたたちはどんなおもちゃになるのかしらね?」
ソフィはただ一人楽しそうな口調で語っていた。




