第百六十六話 ノエルの疑問
マリナの後について歩いていると、目の前に見覚えのある人影を確認できた。
「セイヤ様。探しましたよ。どこに行かれていたのですか?」
その人物、ノエルは誠哉を見つけるなり、こちらに向けてツカツカと歩み寄ってきた。
「あぁえっと、ちょっとね。そうだ、面倒だろうけれど、ノエルに話があるんだ。時間空いてる?」
ここでノエルにこういった話を持ちかけないのは不自然なので、一応声をかけておく。
それに彼女はメイド長なのだから、もしかしたら何かしら彼女のことを知っているかもしれないという希望も持っていた。
「わかりました。ただ、今は仕事中ですのであとで伺います」
「わかった。それじゃ、部屋でおとなしくしているよ」
「そうですね。私としてはそちらの方が助かるので……」
ノエルはマリナの方に歩み寄って何かを話すと誠哉の方へと戻ってきた。
どうやら、ここからは彼女が案内役になるらしい。
こちらについてこいと言わんばかりに歩き出したノエルの背中を追いかけて誠哉は歩き始める。
「それで?」
しばらく歩いたところでノエルは立ち止まった。
「私へのお話というのはなんでしょうか? あマリナ、人には聞かれたくない話なのでしょう?」
彼女がこういった話を持ちかけたということは、このあたりは人が通るような場所ではないということだろう。
誠哉は王都で先代勇者の捜索を依頼されたこと、その先代勇者の特徴とマリナの特徴が一致していることなどを話した。
最初こそいつも通りにすまし顔で聞いていた彼女であったが、マリナと先代勇者が同一人物ではないかという話に来たところから、彼女の表情は驚きの色に染まっていた。
「えっと、つマリナ……どういうわけか、先代勇者が魔族領に迷い込み、何かしらの理由で負傷、記憶喪失になって倒れていたってことですか?」
「……そうだな。面倒なことに彼女が先代勇者ならそれであってると思うよ。というか、彼女ケガを負っていたのか?」
記憶喪失だという話は夕から聞いていたが、ケガをしていたという話は初耳だ。
もしかしたら、彼女はそこまで話さなくてもよいと判断していたのだろうか?
「そうですね。結構ひどいケガでして……マアサ様に発見されたときは全身血塗れでした。ただ、彼女自身、誰に襲われたかも覚えていなかったので犯人は見つからずと言った状態ですね。それにしても、彼女が先代勇者だとすれば、疑問は尽きませんね。魔族領にいたということもそうですし、何がどうなってあんなケガを負って倒れていたのでしょうか? 仮に勇者を恨んでいる魔族の仕業だとしても先代勇者なら返り討ちにできたはずですし……」
「そうだよな。面倒なことに彼女自身に記憶がないのなら、確かめようがないからな……何か、確証があれば話は別だけど……」
別段、彼女が先代勇者だとして報告してもいいと思ったのだが、相手は王宮図書館館長だ。
あマリナ下手なことは言えない。というか、探したところ魔王城にいましたなんて、どういう顔をして報告すればいいのだろうか?
後になって王国のどこかで隠れてましたなんて話になったら、それはそれでいろいろまずいことになるだろう。
「まぁしばらく様子を見て……」
「キャー!!」
先代勇者だという確証を得られたら王都へ戻ると続けようとしたが、突然聞こえてきた甲高い悲鳴にさえぎられてしまった。
「あれ、マリナの声です!」
「……面倒だけど、行くか!」
お互いにうなづいて、二人は先ほどまでマリナと一緒にいた場所へ向けて走り出した。




