第百六十五話 魔王城のメイド
魔王城に戻った誠哉はさっそく、ノエルの姿を探していた。
だが、残念なことに城の構造が把握できていない誠哉に彼女の居場所などわかるわけもなく、魔王城の中をさまよっていた。
よくよく考えれば、部屋にいればそのうち来るのではないかと思ったのだが、その時にはすでに遅く、どこをどう来たかもよく覚えていないため、部屋に戻れず、完全に迷子になっていた。
「……まったく、なんでこんな面倒なぐらい複雑なんだか……」
この複雑なつくりは、歴代魔王による増改築およびマアサが侵入者を逃さないために様々なトラップを仕掛けたことに由来する。
そもそも、最初から勇者と戦う気がさらさらなかったとされている彼女であるが、この現状を見ているとそれがどこまで本当か怪しくなってくる。
とりあえず止まっていても仕方ないと、歩き続ける誠哉であるが、先ほどから同じところを回っている気すらしてしまう。
これには、そもそも魔王城の廊下には窓が少なく、大した装飾品も置かれていないことが原因であろう。
しかもたまにおかれている絵画などは大方似たものであり、これのせいでなお迷子になりやすい。
ノエル曰く、ちゃんと目印さえ覚えられれば迷うことはないそうなのだが、それが何かすらまったく理解できない。
「こんなところで何をされているのですか? ここは一般人が立ち入る場所ではないはずですが?」
そして、もう一つ大きな問題としては、意外と誠哉の顔が知られていないという点がある。
そのため、ちょいちょいメイドに不審者扱いされるのだ。
だが、この場合は助かったというものだろう。
説得して客間まで戻るか、そうでなくてもノエルに会うことぐらいはできるはずだ。
「すいません。道に迷っちゃいまして」
誠哉が振り向くと、そこに立っていたのはほうきを手に持った銀色の髪の毛を持つ少女だった。
服装こそメイド服であるがその背格好は、まさに先代勇者セリアそのものである。
「道に迷った? どういうことですか? お客様でしたら道案内はそれぞれメイドがしているはずですが?」
「いや、まぁお客さんといえばお客さんなんだけれども、面倒なことに厳密には少し違ってね。メイド長のノエルに用事があってね。できれば会わせてくれる? 彼女が忙しいのなら、ボクは部屋でおとなしくしているから部屋に案内しくれると助かる」
目の前の少女は小さくため息をついた。
そもそも、彼女に会えた時点でノエルに会う必要性はないのだが、夕に以前の記憶に関することを話すなとくぎを刺されている以上、本当のことを話すわけにもいかない。
そもそも、魔王城で働いている彼女にあなたは、先代勇者でしたなどとはとてもじゃないが言いにくいというのもあるかもしれない。
そもそもだ。見た目は似ているが、表情だったり行動だったり、雰囲気だったりは聞いていたものとは違うという点が気になる。
記憶喪失の影響だと言い切ってしまえば、それまでかもしれないが、他人の空似という可能性も捨てきれないのだ。
少し空を仰いで考えていた少女であるが、むやみに追い出すものではないと判断したのか、手に持っていたほうきを廊下の壁に立てかけた。
「わかりました。メイド長は今、会議中です。なので、部屋までご案内します。お名前をうかがっても?」
「誠哉。沖村誠哉だ。君は?」
「……マリナです。メイド長が言っておられたのはあなたでしたか」
マリナと名乗った少女は誠哉の顔をまっすぐと見据えた。
「どういうこと?」
「いえ、お客様の中にマアサ様の兄上様がいると聞いていましたので。それでは、お部屋までご案内いたします」
そういうと彼女はメイドらしく、きれいな動作で頭を下げる。
「どうぞ。こちらへ」
彼女が歩き出すと、その背中を追いかけるような形で誠哉は歩き出した。
彼女と先代勇者は同一人物である。
そう思うのだが、確定的な証拠が足りない。
彼女と先代勇者をつなぐものはないのだろうか?
そんなことを考えながら、誠哉は廊下を歩いていた。




