第百六十三話 魔族領の現実
誠哉とエイリーンは城下町の中でも特に貧困層が暮らすような場所を訪れていた。
曰く、ユウはよくボランティアとして貧民街の住民の回診をしているらしい。
そのため、彼女はそこへ向かったのではないかというのがエイリーンの考えだ。
「にしても、どうして行先の検討がついているのなら、探しにでたりしたの?」
「それは、えっと、急きょ先生にお伝えすることがありまして……その、その内容はこちらの話なので控えさせてもらいますが……」
「いや、別にその辺はいいよ。関係者じゃないのは事実だし」
少女はぺこりと頭を下げた。
「しかし……さっきまでとは全然違うな」
「そうですね。このあたりの住民は魔族領の中でも底辺の生活をしているといっても過言じゃありません。えっと、だから明日の心配が必要な人たちなんです」
先ほどまでは、街全体に裕福な印象を受けた。
しかし、この付近にはそのような雰囲気は微塵も感じられない。
あの場所が光ならばこの場所は影の部分なのだろう。
「……ユウさんはここで診察をしているのか?」
「そっそうですね。私は、その……時々ついて行っていますが、これを見ているとこれが魔族領の現実だってそう思ってしまうんです。そっそのですね。確かにこれがすべてじゃありません。商店を営みそこを訪れて商品を購入するということが活発に行われているのもまた、魔族領の実態です。つまりですね。その……格差が大きくなっているんですよ。ニンゲンの国よりも……ですが、だからと言って私たちがどうにかできるわけじゃないんです。だから、せめて自分たちでできることをといってやっているのが無料診察なんです」
「なるほどな……確かにこの現状を変えるのは大変かもしれないな……」
この現状を変えたい。
そんな思いがわいてくる。
そして、自分にはそれができるだけの力がもたらされようとしている。
誠哉は小さく手を握った。
「……そうだ。ボクなら……」
法律の整備からすべて新しい国の建国にかかわれる。
だったら、そういった方面のこともできるのではないだろうか?
そんな思いがわいてきた。
ただ、これを見てかわいそうだと思うだけではだめだ。行動をして初めて、それは本当の同情だったり優しさになるのだろう。
「……あぁ! いた!」
誠哉がそんなことを考えている横でエイリーンが大きな声を上げた。
彼女が指差した方を見ると、そこには白衣を着たユウと思われる人物が立っていた。
「あれ? エイリーン。どうしたのこんなところで……」
「どうしたもこうしたも突然、消えないでくださいよ。急ぎの用事があるので、来てもらってもいいですか?」
「まぁいいけどさーそういう時っていつもたいしたことじゃないよね? 大丈夫?」
懸命に連れて行こうとするエイリーンに対しユウはどこかけだるしょうにしている。
その様子をしばらく眺めていると、彼女はこちらに気づいたようで誠哉の前へと歩み寄ってきた。
「あのさ……だれ?」
「えっと、沖村誠也と言います。面倒だけど、エイリーンさんと一緒にあなたを探していました」
「なるほどね。私は黒衣夕。黒い衣に夕方の夕で黒衣夕だ。よろしく頼むよ」
そういうと、夕は右手を指しだし、誠哉はそれを握って握手を交わす。
「エイリーンが迷惑かけなかったかしら? なんというか、ドジっ子だからさ」
「いや、そんな感じはなかったですよ」
どちらかというと一生懸命な印象を受けたから間違ってはいない。
すると、彼女は遠慮しなくてもいいのに……などと言いながら頭をかいていた。
「まぁいいや。それならそれで。悪いけれど、私は行くよ。ぜひとも礼が言いたいから今日の夕方私の診療所まで来てくれるとありがたいな」
そう言い残して夕はエイリーンとともに立ち去っていった。




