第百六十話 誠哉の答え
夜になって、誠哉は自室の窓から見える月を見つめていた。
おそらく、ネラと名乗った女性が求めていた答えというのは、魔王になるか否かということなのだろうから、その答えは最初から出ている。
しかし、その時に一緒に話していたことの内容が衝撃的過ぎたのだ。
彼女の言うことが正しければ自分はマアサにいいように利用されていた。いや、ただの保険だったということだ。
彼女の理想だったり構想だったりがなんだか知らないが、沖村誠也という人間はあくまでもしもの時のための保険であり、そのもしもがあった時に都合よく動くように周りの環境も整備してあるのだという。
「……どういうことだよ。マアサ」
本人に今すぐにでも問いただしたいが、あいにく彼女と会話することはできない。
それに会えたところでそれを否定してくれる保証はない。
もしかしたら、ばれてしまったんですわね。とか言いながら、それを認めるような発言をする可能性もある。
だが、死人に口なしという言葉にある通り、今の誠哉にその真相を知るすべはない。
「セイヤお兄さま。入りますよ」
扉をゆっくりとあけてユキが姿を現す。
おそらく、元気がないのを心配して様子を見に来たのだろう。
「ユキか……」
ユキは、部屋に入ってくるなり、まっすぐと誠哉の方へ向かい膝の上に乗った。
誠哉は、彼女の黒い髪をゆっくりとなでる。
「……ユキの髪はさらさらだな」
「うん。ねぇセイヤお兄さま」
「なんだい?」
「セイヤお兄さまはマアサお姉ちゃんのこと信じられないの?」
「えっ?」
ピンポイントで先ほどまで頭の中にあったことを思い切りついてきた質問に誠哉は思わずその体勢のまま固まってしまった。
「……どうだろうな。いや、考えるまでもないよ。あいつは面倒だけど信頼できる奴だった」
これが本音なのである。
確かにネラの話を聞いて彼女のことを疑いたくなってしまったのだが、彼女はそんなことをしていないという希望的観測が捨てられないのだ。
だから、自分の胸中は本心は彼女を信頼している。だから、こうも悩んでしまうのだろう。
「……そう、ならいいんだけど……セイヤお兄さまの様子がおかしかったから、マアサお姉ちゃんに関係する変な噂を吹き込まれたのかって心配になっちゃった。だって、ちょっと部屋を出て行ったあとにマアサお姉ちゃんのことを話したら、すごく暗い顔してたし」
「……そうか。ごめんな、心配させちゃって」
誠哉が再び頭をなでると、彼女はとても心地よさそうに顔を緩めた。
ともかくだ。彼女のことが真実であろうか、なかろうが関係ない。
「ユキ。悪いな。もう少しだけ一人にさせてもらってもいいか? 面倒だけど、一人で考えたいんだ」
「そう。わかった。また、あとできてね」
そう言って、ユキは部屋から出て行った。
誠哉は小さくため息をつくと窓の方を見た。
「いるんだろ? 出てこい」
「おや、ばれていましたか」
よくマンガとかで見るように窓の外から逆さづりの状態で青い髪の少女が姿を現す。
おそらく、昼間にネラが言っていた使いとは彼女のことだろう。
「初めまして、リナです。一応、師匠であるネラの使いとして来ました」
そういうと、彼女はトンと壁をけり、誠哉の部屋の中に着地する。
「さて、さっそくですけれども本題から……あなたは、魔王の地位を継承する意思はありますか?」
「ないよ。面倒だけど、また旅に出るつもりだ。人を探してりう途中だしな」
「そうですか。それはそれは……見つかるといいですね。おそらく、すぐにその人に会えますよ。ただし、あなたが望んだ形とは限りませんけどね……」
まるですべてを知っているかのようにリナは余裕の笑みを浮かべていた。
「そうか。ならいいかもな。話はそれだけか?」
「えぇそうですよ。あなたも聞くことはないんですか? たとえば、マアサのことだとか……」
何を期待しているのか、にやにやしているリナであったが、誠哉は彼女の顔から眼をそらし窓の外を見た。
「ないよ。マアサはマアサだ。身内だからね。面倒だけど、ちゃんと信じたい。だから、君たちに聞くことなんてないよ」
「……そうですか。ともあれ、あなたの返事はしっかりと師匠に伝えておきますから。それでは」
そう言い残し、彼女は再び窓から外へと出て行った。
「……結局、彼女たちの目的ってなんなんだろうな」
ただ、誠哉はある意味一番の疑問を消化できずにいたのだった。




