第百五十七話 メイドの正体
洗濯物のかたずけを終えた三人は、誠哉たちがいる部屋の横にある控室へと向かっていた。
「それにしても見かけない顔ね。新入り?」
「えっはい。そんなところです」
ここで下手なことを言ってばれてしまっては、意味がない。
リナは必死に笑顔をつくりながら話を続けた。
「ところで……班長は誰ですか? 一応、こんなことがないように言っておかないといけないので……あぁあなたに不都合がないように配慮しますので」
「えっえっと……」
これはまずい。非常にまずい。
正式なメイドではないリナに上司など存在しない。
そもそも彼女はどのような立場なのだろうか?
少なくとも下っ端メイドをまとめている人間よりも上なのだろう。
「そうね……マリナかしら? あの子、最近なったばかりでいろいろ至らないところがあるし……」
一瞬、話をしている女性の横を歩いている銀髪の少女がびくりと肩をふるわせたが、女性の方が肩を持って耳元に何かささやくと彼女はすっかりと落ち着きを取り戻した。
「ごめんなさいね。この子もマリナの班の子なのよ。それでちょっとね……」
もしかして、彼女は多少なりともおそれられているのかもしれない。
「そうそう。知ってはいるかもしれないけれど私は魔王城メイド長のノエルです。さて、あなたもちゃんと自己紹介してもらいましょうか? ニセメイドさん」
目の前に立つ女性、いやメイド長ノエルは不敵な笑みを浮かべながら、仁王立ちしていた。
*
マリナは状況を飲み込めずにいた。
そもそも班長なんてものは聞いたことはなかった。
その上にそれが自分だとまで言われてしまったのだ。彼女は取りあえず話を合わろと言ったので、あわせるだけあわせてみたが、最終的にはノエルは相手をニセメイドとまで呼び出したのだ。
まったくもって状況が理解できない。
そもそも、彼女が怪しいのなら、最初からつまみ出せばよかったのだ。
「えっと、その……」
青い髪の少女は、たじろいた様子で後ろへと後退していった。
彼女が一歩下がれば、ノエルが一歩前に進む。そんな状態が続いていた。
「それと、さっき班長の名前であげたマリナは私の横にいるこの子よ。それで? あなたはどこの誰なのかしら?」
「その……私は……」
いつの間にか壁に追い詰めらえた少女は、玉のような汗をかきながらノエルの顔を見ていた。
「あの……」
「あら、ごめんなさい。私がちょっとふざけてこの子にメイド服を着せちゃったものだから……別にやましいことは全くないわ」
ちょうど、背後から声が聞こえてきた。
二人が振り向くと、そこには栗色の髪の毛の女性が立っていた。
「ネラ様!」
ノエルは驚きの声を上げる。
彼女が急いで頭を下げたところを見ると、お客様の一人なのだろうか?
ネラと呼ばれた女性は、悠々とした態度でノエルの前に歩いていく。
「こんな忙しいときにふざけすぎた。すぐにもとの服装に戻らせるから、その子をこちらに渡してもらってもいいか?」
「えっはい! かしこマリナました!」
ノエルは、横によけてネラを通す。
ネラは少女のところまで来るとポンと頭に手をのた。
「ほら、私が悪かった。部屋に戻ろうじゃないか」
「はい。師匠」
少女が立ち上がると、ネラは満足そうな笑みを浮かべて廊下を歩きだす。
少女は、その後について立ち去って行った。
「……お客様。だったんですね」
「えぇ。まぁうすうす感づいてはいたけれど……まさか、ネラ様が自らくるとは……」
「どういうことですか?」
マリナが尋ねると、ノエルは小さくため息をつく。
「まぁそのまんまの意味さ、あのお方はあマリナ自分から動きたがらない人でね。そもそも、魔王城に足を運ぶの自体どれくらいぶりかしら? まっ一応、来ているっていう報告はうかがっていたから一段落したらあいさつに伺おうなんて思っていたんだけどね」
「行くんですか?」
「いや、今回は控えておくわ。さすがにこの後じゃ会ってくれないだろうし……それにいつものことだから、勝手に用事を済ませて勝手に帰っていくと思うわ。仕事に戻るわよ」
ノエルはそう言うと、先ほどよりも少し足早に歩き出した。
「待ってくださいよ!」
先ほどのことについて考えていたマリナはそれに遅れるような形で彼女の背中を追いかけて行った。




