第百五十六話 青髪のメイド
「……これのどこが魔法なんですか?」
魔王城の一角にある部屋の中でリナの弱弱しい声が響く。
「そうよ。魔法っていうのは、何も呪文を唱えることだけではないぞ。人心を軽く欺く。これも一種の魔法だ」
「いや、これで欺けるんですか? それ以前にそんなこと魔法とは言わないかと……」
してやったりという表情を浮かべているネラの前でメイド服を着せられたリナは大きくため息をつく。
ネラの作戦を要約するとメイドにふんして色々と工作して来いということだ。
最悪、どれもこれもがメイド長に阻止されるようだったら、セイヤをうまく乗せて脱出させろとのことである。
しかも、工作の方法はその場で考えろと来た。
これは、普通にセイヤを脱出させるルート一直線ではないだろうか?
「まぁともかくだ。作戦はリナに任せる。私は、少々やることがあるから、近くにはいてやれんがな……」
「師匠の用事ってどうせろくなことではないと思うのは気のせいでしょうか?」
「気のせいだ。魔王城の近くでうまそうな菓子をだすお茶屋を見つめてな。そこの調査をしなければいけない。だから、がんばってくれ」
「ちょっ! やっぱり、どうでもいいことじゃないですか!」
リナは精いっぱい抗議をしたが、それもむなしく彼女は煙幕とともに姿を消してしまった。
「はぁもう。勝手なんだから……」
本日何度目かのため息をつき、リナは服装を整える。
ここまで来たらやるしかない。きっと、師匠には何かお考えがあるはずだ。
そう自分に言い聞かせてリナは部屋から出て行った。
*
魔王城の業務は一日中忙しい。
それは魔王が居ようが居なかろうか変わらない。
魔王城メイド長ノエルは、マリーとともに洗濯物を抱えて廊下を歩いていた。
今日は客人が来ていることもあって、いつもよりもバタバタしているため、夜版のメイドまで総動員して仕事にあたっているのだ。
そのために本来は夜にやる仕事もこの時間にやっているという状態である。
「マリーごめんなさいね。あなた、こっちの仕事あまりできないでしょうに……」
「いえいえ。大丈夫です。これぐらいへっちゃらですから……」
そんな会話をしている二人の前に周りをきょろきょろと見回している青い髪のメイドが現れた。
道に迷ったのだろうか? 今日は業務分担がいつもと違うために普段は、行かない場所にいるというメイドも少なくはない。
「ねぇあなた」
ノエルが話しかけると、そのメイドはビクッと肩を震わせた。
「別に起こるわけじゃないわよ。道にでも迷ったの?」
「えっはっはい……」
やはり、メイド長というのはある程度恐れられているのだろうか?
彼女はびくびくしながら質問に答える。
普段なら、怪しむところであるが、今日に限ってはノエルはそんな感情を持ち合わせていなかった。
もしかしたら、あまりにも忙しいのと魔王が居なくなってしまったというのがあって気が緩んでいたのかもしれない。
ノエルは、震える彼女の肩に手を置いて優しく語りかける。
「大丈夫? なんだったら、持ち場までの道教えてあげるけど」
「えっはい……あの、お客様のお世話を班長から命じられたのですが、その……すっかりとこのありさまで……」
「そう……だったら、セイヤ様たちがいる控室まで案内するわ。ただし、この洗濯物を運ぶのを手伝ってちょうだい。道案内はその後よ」
「はい!」
メイドはパッと明るい笑顔を浮かべてノエルから荷物を半分受け取る。
そして、ノエルが先頭を切って歩きだし、マリー、青髪のメイドの順に続いた。
「それにしても控室を知らないなんて、あなたは遅番なのかしら?」
「えぇそうです。なので、こっちの方はどうしてもうとくて……」
「ふーん。なるほどね……」
ノエルは特に気に留めることはなく、廊下を歩き続ける。
そんな二人の背後で青い髪のメイドは不敵な笑みを浮かべていた。




