第百五十五話 リーファの依頼
魔王城の地下の一角に存在する部屋に三人の人影があった。
直立しているリナとネラの前でイスに座っているのは緑色の髪の女性である。
「悪かった。すまなかった。申し訳ない。こんなところに呼び出して」
「いえ。リーファ様のおよびとあればどこであろうとかまいません」
ネラはそういって、片膝をつき頭を下げる。
リナもそれにならうように同じような体勢をとった。
「まぁいいわ。あなたたちを呼んだ理由はほかでもない。魔王が死んだというのは十分ご存じよね?」
「それは知ってますけど……それが何か?」
「聞くな。話すな。気にするな。とりあえず話を聞け。これにより、観測者と記録者は魔族側へのツールを喪失したことになる」
「あなたもですけどね」
稀代の魔王と呼ばれているだけあってか、魔王マアサの交友関係は非常に強かった。
さすがに神の知り合いはいなかったが、観測者、預言者、記録者とそれぞれつながりがあり、はては勇者まで知り合いという事態だ。
そのほとんどは、お互いを利用しているような関係で本当の友人などほとんどいなさそうなのだが……
「簡単に言うと、オキムラセイヤを玉座に座らせるな。防げ。妨害しろ。妨げろ。そうしなければ、この世の運命は暗くなる」
「オキムラセイヤ……確か、死んだ魔王の兄ですよね?」
「そう。それを玉座に座らせるわけにはいかない。しっかりと阻止するように……そもそも、当人が望まないだろうから、そこまで苦労はせんと思うが、周りの勢力をしっかり押さえろということだ。ある程度やってくれたら、そこからは私が何とかする」
ネラが小さく返事をして頭を下げる。
リナも続いて頭を下げる。
「それにしても、なぜあのニンゲンごときを気にするのですか?」
「そうだな。まぁ簡単に言えば彼はマアサと同様に人を引き付けるところがある上に、それをうまく利用できる才能を秘めていると出た。仮にそうなれば、我々を含めた天界全体へ影響が出てくる可能性がある。そもそも、創造神とのつながりもあるようだしな」
リーファは一歩、ネラたちのほうへと歩いた。
「方法は問わない。ただし、我々の関与を疑われるな」
「はい。かしこまりました」
「下がれ。戻れ。帰れ。振り向くな。しっかりと頼むぞ」
「はい」
ネラとリナは立ち上がってから、胸に手を当てて礼をした後、退室していく。
部屋に一人残された形となったリーファは不敵な笑みを浮かべながら二人が出て行った扉を見つめていた。
*
地下室を出た二人は、広い廊下を歩いていた。
たくさんの客人が来ているからであろう。パタパタといつも以上にせわしく動いているメイドたちであるが、二人の姿を見つけるとしっかりと頭を下げた。
「それにしても師匠。どうやります?」
「そうね……簡単に言えば、裏から手を回すのが手っ取り早いけれど、足がつく方法は選べないわ。だから、ちょっとした魔法を使いましょう」
そういって、指を立てるネラはどこか楽しげな様子だ。
「魔法ですか?」
しかし、リナが知る魔法の中で今回のもので使えそうな魔法は思いつかなった。
当然ながら、すべてのものを知っているわけではないが、必ずしも都合のいい魔法がないことをリナはいやというほど知っていた。
「そう。魔法」
リナの疑問など、置いてきぼりでネラはあっけからんとした笑顔を浮かべながら上機嫌で廊下を歩く。
少々難しい仕事に動揺しているリナの姿とは逆に余裕すらも感じられた。
「そうだ。これをするために一つやってもらうことがあるわ」
「やることですか?」
「えぇ。リナ。服は用意するから着替えて頂戴」
「えっ? はい……」
二つ返事で了解したリナは歩調を速めたネラの後ろを懸命について歩いて行った。




