第百五十四話 地下の侵入者
魔王城の地下、薄暗い廊下を歩いている二人の少女の姿があった。
「……少女は、無言で歩き続ける。そう。彼女は」
「何やってんですか。さっきからぶつぶつと」
「横にいた青い髪の女の子の不満を受けて、振り返った」
何よ? 私は、変なことを言っているつもりはないわ。
「いや、そこはしゃべってくださいよ」
「女の子はあきれたようにうなだれる。わざわざ口に出したのだが、ちゃんと理解できなかったようだ」
「出してませんし……まぁいいや。つーか師匠。本当に大丈夫なんですか?」
何がだ?
「女の子の言葉に師匠と呼ばれた人物は首をかしげる。そして」
「いい加減にせんかー!」
女の子のこぶしは師匠ことネラの顎に突き刺さる。
殴られたネラは勢いよく飛び低い天井に衝突した。
「いたたたた……リナ。私はちょっと、ふざけただけじゃないか。何をそんなにかっかと……」
「しますよ! 私たちが今何やってるかわかってます? 上の階には魔王の兄だったりメイド長だったり、勇者だったり、元観測者だったりと無茶苦茶厄介な奴らがいっぱいいるんですよ! なんでそんなにのんきなんですか!」
「別にいいよ。そんなん気にしなくて、だって、奴らはこんな地下通路の存在なんて知らないだろう? それにここで騒いだところで上には聞こえんよ。それよりもさっさと行こう。リーファ様がお待ちだ」
そう言ってネラは何事もなかったのように立ち上がり、歩き始めた。
リナは大きくため息をついてからその背中について歩き出す。
「それにしても、なんでリーファ様はわざわざ魔族領……しかも魔族城に来いなんておっしゃったんでしょうか?」
「さぁ私にもあのお方の意志なんてわからないよ。あのお方が右と言えば右、左と言えば左。それが私らだ」
「まぁそうですけど……」
リナは口をとがらせてどこか不満げだった。
ネラはその頭をそっとなでる。
「まぁまぁ落ち着きなさいよ。そんなにぷりぷりしたところで何も変わらないよ」
軽快に笑いながらネラは薄暗い廊下を歩いていく。
「はぁ私も師匠みたいになりたいですよ。いろいろな意味で……」
リナは肩を落としてその後について行った。
*
それぞれの話が終わったところで鈴菜は魔法を解いた。
すると、あっという間に元の客間に戻ってくる。
「それにしても、まさかセイヤたちが私が魔王城に閉じ込められている間にちゃっかり王都の観光していただなんて……道理で見かけないわけだわ」
「まっまぁそうだな……アンナには悪いかなとは思ってたんだけど、ほら、面倒なことにボクたちが王宮にいる必要はないでしょ? むしろ、本来ならいたらまずい人間だし」
残念ながら事実を語るわけにもいかなかったので、王都で訪れた中でも観光客が訪れそうな場所について話した。
新日新聞に関しては、どうしてそこにと少し突っ込まれたが、そこも何とかごまかせたので問題ないだろう。
「まぁオリーブがそこはかとなく本気で植物学者をやろうとしてそこはかとなく迷宮内に家を建ててたってのはそこはかとなく気づかなかったな」
「気づいたらすごいと思うんですけどね。割と離れてますし」
鈴菜の言葉に対してオリーブは思わず苦笑してしまった。
「いやいや、そこはかとなく探し出していくから。覚悟しておきなさい」
「何を? まぁいいや。待ってますからね」
張りつめていた空気はすっかりと穏やかになっていた。
「それにしても、よかったね。みんなが元に戻って」
「そうだな。ユキ……まぁこれからたくさん面倒事があるだろうからな……今のうちにちょっとでも楽しんでおいた方がいいかもな」
誠哉は優しくユキの頭をなでる。
マアサが死んだ場合、王位継承権は誠哉にあるのだ。
そのあたりがどうなるかによって、結果は大きく変わってしまう。
誠哉は小さくため息をついてから、笑顔を浮かべて皆の話に混じった。
だが、当然ながら今の彼は知らない。
この先に待っているある事実を……




