第百五十三話 鈴菜の話
気づけば周りの風景はいつかの図書館のような場所に変わっていた。
改めてみてみると、その場所が王宮図書館に似ているのが良くわかる。
違っているところと言えば、天井の一部が高くなっていて、その上にはめられているステンドグラスから煌々と光が差しているところだろうか?
鈴菜は、イスと机を出現させて皆を座らせた。
「まぁそこはかとなく前みたいな大がかりな魔法を発動させるつもりはないから、そこはかとなく順番に話をしようか。さっき言ったとおり、最初は私だけど」
そう言って、鈴菜は紅茶のカップを机の上に置いた。
「さて、あれとの出会いはほんの些細なことだった……」
鈴菜はどこか懐かしそうにしながら語り始めた。
*
森の迷宮。
当時でいえば、いまだに魔物が残っている危険地帯ということで知られており、そこに入ろうという人間は少なかった。
そんな森の中、正規のルートから少し外れた場所に一軒の家が建っていた。
そこの家にはあまり生活感がなかったのだが、一人の魔女が住んでいた。
この家の唯一の住人である鈴菜は、カップを手に取り紅茶を楽しんでいた。
机の上には、たくさんの人形が置かれていて、大きいものから小さなもの、作りかけのものから壊れていて修理をしようとしているものまで様々だ。
「暇ね」
思わずそんなことをつぶやいてしまう。
永久の時を生きる者もしくはそれに近いものにとって最大の弱点は暇であることだ。
彼女はひたすら人形作りに打ち込んでいるが、そればかりだと、人のぬくもりが急に恋しくなるときがあるのだ。
しかし、会うのが普通のニンゲンではつまらない。
この暇をある程度、払拭してくれるほどのニンゲンである必要があるのだ。
彼女がそんなことを考えていた時であった。
何者かが扉をどんどんと勢いよくたたいたのだ。
「あら、こんなところに来客なんて、そこはかとなく珍しいこともあるのね」
ここは、普通に歩いていたところでたどり着ける場所ではない。
だからこそ、面白いニンゲンが訪れたはずだと踏んだのだ。
「さて、こんな森の中までそこはかとなく何をしに来たの?」
扉をゆっくりとあけてみるが、そこに誰かがいる気配はない。
「あれ? そこはかとなく風のせいかしら?」
そういった直後、誰かが足をぐいぐいと引っ張った。
「えっ?」
視線を下におろすと黒い髪の女の子が立っていた。
鈴菜はそのことに驚きつつもその子を家の中に入れた。
女の子を家に入れた鈴菜は少し考えた後に棚の奥にしまっておいた緑茶を彼女の前に出した。
見たところ日本人だろうか? だとしたら、鈴菜と同様にこの世界に迷い込んでしまったのかもしれない。
もともと、鈴菜はこの世界に召喚されたのだが、召喚したニンゲンはすぐにどこかへ姿を消してしまった。
そのため、鈴菜自身なぜこの世界に召喚されたのか全く理解できていなかった。
「ねぇあなたはどこから来たの?」
鈴菜の問いに女の子は首を横に振る。
鈴菜は、小さくため息をついてその場を離れた。
「まぁいいわ。そこはかとなくしばらくここに住んでもいいわよ。ただ、そこはかとなく勝手に家から出ないでね」
鈴菜はあきらめたように言い放った。
これで少しは気がまぎれるかもしれない。
一方でそんなことを想いながら……
*
「それから彼女が私の魔法に興味を持つまでそんなに時間はかからなかったな。そこはかとなく彼女はただのニンゲンじゃなかった。そもそも私は普通のニンゲンとは生きる時間が違うのだから、その時には気づけなかったが、彼女の成長速度は異常に遅くてな。10代前半ぐらいの身体で成長を終えたようだった」
「なるほどね……なんだか、聞いている限り楽しい話というよりはただの昔話って感じだけど……」
鈴菜の話を聞き終わり、アンナはあいまいな笑みを浮かべていた。
「まぁいいんじゃないか? 面倒なことに本人にしちゃ楽しい話なんだろうし」
「そこはかとなくわかっているな。その通りだ。次はオリーブの話でも聞くか」
「なるほど、時計回りに話すということですね。わかりました」
オリーブは納得したように手をたたいた後、あごに手を当てて話のネタを考え始めた。




