第百五十一話 怜菜の取材
早朝。
アンジェルは王都の大通りを歩いていた。
昨日まで開催されていた祭りの片づけが済んでおらず、どこかごちゃごちゃとしている通りには人の気配はあまりない。
やがて、周りの建物よりも一回り大きい新日新聞本社につくと、アンジェルはそこへ入っていく。
「思ったよりも早い到着ですね。そんなにコソコソとしなくてもいいのではないですか?」
中に入ると、広いホールの真ん中でちょうどアンジェルの物と思われる荷物の横に怜菜が立っていた。
彼女は手帳と羽ペンを持っており、新日新聞の記者であることを現す腕章をつけている姿は、まさに彼女が記者としての仕事をするときの格好である。
「怜菜。どうしたの?」
「いえ、ちょっとした取材ですよ。いいですよね?」
断ろうと思った。
怜菜の取材は基本的に長くて、とても時間を食うのだ。
しかし、怜菜の表情は真剣そのもので、気づいたときには了承の返事をしていた。
それに拒否すれば、荷物を丸ごと持っていかれそうだし……
「ご協力感謝します。それでは、こちらへお願いします」
完全に仕事をする人の顔になっている怜菜は、そう言っていつもの応接間の方に歩き出す。
小さくため息をついたアンジェルは、その背中を追うように歩き出した。
「それで? 急にどうしたわけ?」
「いいから、おとなしくついてきてください」
やがて、前を歩く怜菜は無言になり、アンジェルも話しかけることをやめた。
彼女のことだから、意味のないことをするつもりはないのだろうが、はっきり言って何がしたいの理解できなかった。
もしかしたら、想定よりも荷物が多かったのでどこへ行くのかと問いただすつもりなのかもしれない。
応接間につくなり、怜菜は扉の鍵を外側から閉めさせてソファーに座るように促した。
「すいませんね。わざわざ迷宮に行く前に及びたてしたりして」
情報源はあの店の店主だろうか?
迷宮へ行くのを止めたいということなのかもしれない。
アンジェルの中で様々な疑問が飛び交う中、怜菜は淡々と話し始める。
「実をいうと、昨日会った時点であなたが迷宮に行くというのは知っていました。まぁそれは置いといて、取材はこれとは別件ですので……それと、心配しなくても迷宮へ行くのはあくまであなたの意志ですので妨害はするつもりはありません。ただ、それに向けて少なからず支援をしたので取材には協力していただきますよ」
初めからそこが狙いだったのだろう。
これまで、彼女から取材を申し込まれたが受けたは最初のうちだけでその後はすべて断っていた。
理由としては、時間が長いとか、どんどんと奥まで突っ込まれるのがいやだったりとかが大体である。
基本的に断れば、それ以上言ってくることはないのだが、今回は珍しく彼女ららしくない強引な手段を使ってきたというわけである。
「まぁいいけど……何の取材なの?」
「えっとですね。タイトルはズバリ! 今を時めく王宮図書館司書。ってところでどうでしょうか? まぁ一般の新聞には載せませんよ。あくまで王宮にお届けしている宮内報に乗せるだけですから」
彼女が言う宮内報というのは、主に王宮関係者向けに発行されてる新聞のことだ。
王宮向けということもあって、王宮にいなければわからないネタが多いのだが、主に王宮の中でも使用人や図書館司書が熱烈に支持をしている。逆にネタにされる貴族たちは面白くないいようだが……
彼女がこのようなことをできる理由として、彼女が持つ特権が大きな影響を持っている。
もともと、異世界召喚に巻き込まれるという形でこの世界に来た彼女の身分は実は上級の貴族で普通の貴族にはない特権を持っている。
そのため、この国の中で彼女に対して命令ができるのは国王か王宮図書館館長のみで王子ですら怜菜には逆らえないというちょっとやりすぎやしないかというぐらいの権力を持っている。
それをうまいこと活用してやっているのが、今の新聞記者という仕事なわけである。
ただ、そうじゃなくてもこういった新聞は書くつもりだったと本人は言っているが……
「それじゃ、さっそく一つ目の質問から……」
これから長時間に及ぶと思われる取材はそんな一言で始まった。




