第百四十九話 迷宮探索の準備(後編)
怜菜と別れたアンジェルは、王都の中でも比較的静かだといわれているような区域を訪れていた。
彼女が紹介状と一緒に渡してくれた地図には、ここの住所が書かれていたのだ。
しかし、冷静になって考えてみるとなんで、彼女が都合よくそんな紹介状を持っていたことが気になってしまうが、考えてはいけない気がするので、思考はそこでとどめておく。
何はともあれ、路地裏にある道具屋に到着したアンジェルは、恐る恐る店の扉を開けて中に入って行った。
店の中は、たくさんのナイフやソードなどの刃物から、ハンマー、ロープなどがたくさん置かれていた。
「すいません!」
アンジェルが声をかけると、ガタンという音がした後に店主と思われる男性が姿を現した。
「いらっしゃいまし……あぁあなたは、初めて見る方ですね。紹介状はお持ちで?」
アンジェルは懐から紹介状を出すと、男性はパッと笑顔を浮かべた。
「あぁ新日新聞の関係者ですかい。いつもお世話になっておりやす。王都の外までの取材旅行と言ったところですかな?」
「えっえぇ。そんなところです……」
怜菜にもらった紹介状をよく見てみると、確かに新日新聞とはっきり明記されていた。
つまり、彼女は新聞取材で王都の外に行かせるときに決まって、ここを利用させているということだろうか?
「それで? どちらまで」
「えっと、森の迷宮です」
「森の迷宮かい? それはまた、大変だ。ちょっと待ってな準備をしてやるから」
男性はあわてた様子で店の奥へと入って行った。
やはり、迷宮に行くというのはそれほどのことなのだろうか?
やがて、男性が戻ってくると、彼はたくさんの道具を両手いっぱいに持って戻ってきた。
「これ、全部ですか?」
「いや、個人の好みだったり、使いやすさだったりがあるからな。とりあえず、代表的なものを持ってきただけだ。好きなものを選んでもらっていい。それと、代金についてはその紹介状を持っているから、すべて新日新聞に請求することになるから、この場では払わなくてもいい」
「えっはい。わかりました……」
なんだろうか。
事前にこうなることを見透かして用意していたようだ。
いや、彼女のことだから本当にどこかからそういった情報を仕入れて準備していたのかもしれない。
それから、アンジェルはゆっくりと商品を見て、品定めをしていく。
大きなものから小さなものまで物はさまざまであるが、アンジェルはじっくりとそれらを見ていく。
「それじゃ、これでお願いします」
「はいよ。じゃ、明日新日新聞に届けておきやすんでご安心ください」
店主とそんな会話をして、店を出たころにはすでに夕方となっていた。
アンジェルは少し急ぎ足で最初の店に戻ろうとするが、昼間よりも人が多く、むしろ遅くなってしまった。
「あぁもう。なんでこんなに人が多いのかしら」
数少ない祭りなのだから、本来ならばアンジェルもそこに交わって楽しんでいるはずなのだが、彼女は今、それどころではなかった。
「あれとこれとそれと……とりあえず必要なものはそろったかな……」
とりあえず、買うだけ買ったので明日の朝にでも新日新聞まで荷物を受け取りに行けば準備完了である。
アンジェルは、人ごみをかき分けながら王宮へと向かっていた。
*
アンジェルが王宮に帰ると、すっかりと遅くなっていた。
しかし、部屋に戻るとナタリーが部屋の扉の前に立っていた。
「遅かったですねー手間取りましたかー?」
「はい。少し……どうしましたか?」
「いえですねーもしよかったらなんですけれども、夜ご飯ご一緒しませんかーってことなんですよー」
よくよく考えてみれば、まだ夕食をとっていなかった。
アンジェルが了承の返事をすると、ナタリーは小さくうなづいて歩き出す。
アンジェルは、その背中を追うように歩いて行った。




