第百四十六話 迷宮探索のすゝめ
自室に戻ったアンジェルは、さっそくマリーから借りた本を開いた。
かなり分厚い本が何冊も積まれているという状態なのだが、これを見てもなお読む気が失せないのは、王宮図書館で司書をやっているゆえであろうか?
本を読みなれているというわけではないが、さっそく一番上にあった本を手に取った。
“迷宮探索のすゝめ”という題名のその本には、迷宮探索について詳しく書いてあった。
その中でも、いくつか目を引く文章が存在していた。
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迷宮は、世界の中心である。
そして、魔族領とニンゲンの国を隔てている重要な場所でもある。
二つの領域は、迷宮か海、はたまた険しい山脈で区分けされているのだが、一番安全に両方を行き来できるのは迷宮であるといっても過言ではない。
実際、迷宮内に住んでいる魔女も存在するし、魔族領へ行くニンゲンやニンゲンの国に向かう魔族が迷宮を通行することはよくあることだ。
しかし、迷宮はいったん正規の道から外れると、その本質を発揮する。
下手に迷うと二度と出られない。それはあながちウソではないのだという。
だから、迷宮を使って行き来する場合、必ず正しい道を知る必要がある。そういった意味では、案内人をつけるのが適切であろう。
さて、少し話がそれたが、迷宮というのは世界の中心であり重要な存在である。
世界の創造について書かれた文献にこのような文章が存在する。
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かつて、世界に存在する国は一つだった。
だが、次第に考え方の違いや言語などの違いで分裂していった。
一つできてはまた分裂し、一つできてはまたバラバラになる……気づけば、世界はたくさんの小国で構成され始めていた。
私がこれを記している時点では、皮肉にも一国の面積よりも魔族領の方が大きいといった事態へ発展してしまっているのだ。
そもそもなぜ、言語の違いなどが生じてしまったのか、なぜ国を左右するほど考え方が違ってきてしまったのか。
それは神の怒りに触れてしまったからに他ならない。
人は自らの力を過信しすぎたのだ。
皆が集まればなんとかなる、自分たちの力さえあれば神など関係ない。
いつしか、人々はそう考えるようになっていた。
おそらく、それがいけなかったのだろう。
現に今は、観測者を始めとして一部の限られた者しか、すべての言語を理解することができないのだから。
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これは現在は王宮図書館に置かれているある本に書かれていた文章だ。
これに書かれている言語の分裂であるが、それは迷宮を隔てるとそれは全く違ってくるのだ。
ここには、ニンゲン側のことしか書かれていないのだが、実をいうと魔族側からいうとまったく違うものになるのだ。
なぜ、魔族領は一つのままなのか? それは、ニンゲンの国のような分裂がなかったからに他ならない。
言語の違い、考え方の違いがあるとすぐに相手をつぶそうとするとニンゲンと分かり合おうとする魔族という構造が成り立っていたのだ。
それは、神がそれぞれに与えた使命にあるのかもしれない。
ニンゲンはすぐに死ぬ。しかし、数は多い。魔族は簡単に死ぬことはない。ただし、数は少ない。
この二つの知的生命体に何の違いがあるのだろうか?
いや、本来ならそこまでないはずだ。
言葉が通じないわけではない。何の意味もなく行動することはない。
二つともそういうものなのだ。
だから、魔族の考え方を知るために迷宮を通り、魔族領へ向かうことを推奨する。
それは、われわれニンゲンにとって大切なことなのだろうから……
*
そこまで読んでアンジェルはぱたんと本を閉じる。
「……魔族領か……」
魔族領に行こうなど考えたこともない。
そもそも、魔族は人間の敵、それは常識のようなものだ。それは、魔族から見てもそうなのではないかと思えてしまう。
しかし……
「こういう風に書いているってことは魔族領に行ったことがあるってことだよね。それに、魔王が王宮図書館に来ていたみたいだし……」
彼女の頭の中をよぎるのは怜菜に見せてもらった写真だ。
あれが本当ならば、堂々とではなくても魔族が人間の国を訪れているということになる。
「それに、魔王って写真で見ていると普通の女の子と変わらないよね」
第一印象は、どこにでもいそうな女の子。
少し服の質をおとせば、そこいらの町中で遊んでいる子供たちの中に普通に混じれるだろう。いや、さすがにそこまで幼い見た目ではないか……
先代勇者を探しつつも少し魔族領に行ってみようか……
そんなことを考えながら、アンジェルは再び本を開いた。




