第百四十五話 アンジェルの疑問
さて、さっそく残っていた仕事の片づけに入ったアンジェルであったが、一つ引っかかるものがあった。
それはマリーの態度である。
今回の出来事は一応、最初に警告されたアルドンサの調査につながるものである。
しかし、館長は快く許可をしてくれたばかりか、勉強の為に本の閲覧を許可するとまで言い切ったのだ。
何か裏がありそうだと勘ぐってしまうのはある種、必然の流れだ。
「でも、考えない方がいいのか?」
本を持ったまま、思わずそんなことを思案してしまう。
別に彼女が何かをたくらんでいて、それに巻き込まれるのだとしても結果的に先代勇者を見つけられればいいなんて割り切れればいいだろう。むしろ、彼女の何手も上を言って逆に利用できるほど頭が切れればよかったのかもしれない。
しかし、アンジェルは何の変哲もないただの人間だ。
「アンジェルさーん、お悩みですかー?」
そんなとき、タイミングを狙ったかのようにさっきとは別の人物が背後に現れる。
それにしても、自分の周りには突然、背後に現れる人が多すぎやしないだろうか?
「いや、またちょっと嫌なのというか、観測者に遭遇しまして……例のごとく、その直後に館長にあったわけなんですけれど……」
「あぁあぁなるほど……二人に迷宮行きを止められたと」
「いえ、観測者はともかく、館長は快く許可をくださいました」
「えっ?」
ナタリーは信じられないといった表情を浮かべていた。
それはそうであろう。アンジェルですらあまり信じられない。
「どうして?」
「さぁ。館長は先代勇者を探す人が多いといいみたいなこと言っていましたけど」
アンジェルが答えると、ナタリーはあごに手を当てて何か考えるようなしぐさをする。
おそらく、彼女とて少しばかり一連の出来事を疑問に思っているのかもしれない。
「どう思いますか? 今回のこと?」
「……そうですねーそう簡単に済むような問題ではないでしょうねー長年にわたって、この図書館に勤めてますけどー館長がたくらんでいることが分かったことなんて一度もありませんしーたぶん、全部知っているのは館長自身だけじゃないですかー? まぁ深く考えても仕方ないのでーとりあえず、迷宮に行くことだけを考えればいいと思いますよー」
つまりは、考えても仕方ないということなのだろうか?
確かにそうかもしれないが、どうしろというのだろうか?
「そんな顔しちゃいけませんよー私たちは司書なんですからーどうせ、館長の方針に従うしかないんですしーそう考えると、館長の了承ありでやれるほど都合のいい状況はないと思いますよー」
「そう、かな……そうですよね。ここまで来たら、しっかりと勉強させてもらって迷宮へ行きます!」
「えぇその意気ですよー」
やる気を出して去っていく、アンジェルの背中を見送った後にナタリーは大きくため息をつく。
「これでいいですか? 館長」
「えぇ。心可視化不満そうだけど、気のせいかしら?」
「いえ。そんなことは……それよりも、本当にアンジェルを迷宮に行かせていいんですか? だって、あの子は……」
何かを言いかけたナタリーの口をマリーが手でふさいだ。
「それ以上は言わない約束よ。私としては、あの子があれと向き合っていくためにも今回のことはチャンスだと思うの。だってそうでしょう? 街中なんかで下手に発現したら、それこそ厄介なことになるわ。要は厄災の芽はさっさと摘むに限るってことよ。あなただって、それぐらい理解できるでしょう?」
「はい。館長のおっしゃる通りでございます」
ナタリーは特に反論することなく頭を下げる。
マリーはそんな彼女を見て、どこか人の悪そうな笑みを浮かべていた。




