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魔王の兄は旅をする  作者: 白波
第十一章 王都の祭り
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第百四十三話 司書長の話

 小料理屋を出たアンジェルとナタリーは河辺に座っていた。


「それでー今日はどこに行ってたんですかー?」

「えっとですねーその……実は……」


 アンジェルは、ゆっくりと今日の出来事を話し始めた。

 ナタリーは聞いているのかいないのか、のんびりとした様子で川面を眺めていた。


「……という訳なんですけれど……」


 一通り話し終えたアンジェルはナタリーの顔を見るが彼女は黙って川面を見つめたままである。


「……そうですねーあなたの話は興味深いですよーまぁそうですねー今すぐにとは行きませんけどーいずれ、森の迷宮に行ってもいいですよーただし、ことがことだけにーあなた一人でっていうことになりそうなのでそこのところどうですかー?」


 思ってもみない提案にアンジェルは驚かされていた。

 しかし、それと同時にアンジェルの中にある感情が生まれた。


 そもそも、直接関係のない人間のためにここまでやる必要があるのかという点だ。


 よくよく考えてみれば、自分の当初の目的はどこにあるのだろうか? マリーの交友関係? 先代勇者の行方? 観測者の動向?


 考えてみれば考えるほどどんどんと分からなくなっていく。


「私って何がしたいんだろう……」


 そして、その思いはうっかりと口からこぼれてしまった。

 マリーはいつも通りに笑顔を浮かべたままアンジェルの顔を見る。


「さぁーそんなことは私は知りませんよーでーもー、迷うぐらいだったら今やっていることをやりきっちゃうことがお勧めですねーだって、さすがにあれは必要なかったっていう後悔からは得る物がありますし、遠回りでも大事な問題を解決する手助けになるかもしれませんしねーでも」


 マリーはそこでいったん言葉を切った。

 その顔を見ると真剣そのものであった。


「でも、途中で放り出してやっぱりあれをやるべきだったっていう後悔からは何も得られませんし、時によっては大切なものを失うことになりかねますよ。いいじゃないですか、少しぐらい遠回りだろうが、迷子になろうが、最後にちゃんとした答えにたどり着ければそれでいいじゃないですか。私の言っていることは単なるきれいごとかもしれません、本来だったら、そんなことよりもあなたは王宮図書館の司書なのよ。って言って、止めるべきなのかもしれません。でも、私はあなたに後悔してほしくない。同じ後悔ならやるだけやってから後悔してほしい。悔しがってほしい。そして、学んでほしい。何を迷うの? 先代勇者を探したいのならそうしなさい。神は人にチャンスは与えても人をおとしめるようなことはしません。おそらく、あなたは先代勇者を探し出すことで、そもそもの発端となった疑問の答えを見つけられるはずです。そうでなかったとしても、何か、大切なヒントを得られるのかもしれません」


 マリーは再びほんわりとした笑顔を浮かべる。


「だから、あなたはあなたの思ったようにしなさい。私は、それを邪魔したりはしませんよーただし、出発まではいつも以上にみっちりと仕事をしてもらいますけどねー」

「はい!」


 それに答えるアンジェルの顔もまた、満面の笑みが浮かんでいた。




 *




 そんな二人の様子をアルドンサは天界から観測していた。

 彼女は、小さくため息をつくと泉に地上の様子を映すのをやめた。


「……フランコ。下に行くわ」

「また、地上か? 相も変わらず物好きのようだな。人形遣い殿は」


 その言葉とともに観測者の一人である『白老の騎士』タルクウィニオ・ランフランコ・プッチャレッリが姿を現した。

 真っ白で豊富に蓄えてあるひげと鎧姿が印象的な彼は、部屋に入るなり先ほどまでアルドンサが座っていた場所の隣に置いてあるイスに腰掛けた。


「あら、あなたも下に行っていたそうじゃない。それも、姿まで変えて私の観測対象に接触していたみたいだけど、どういうつもり?」


 表情こそいつも通りだが、その声にはちょっとした不満がにじんでいるように感じた。

 だが、フランコはそんなことは気にしないといわんばかりに堂々とした態度で話を続けた。


「人形遣い殿が心配するような深い意味はない。時に人形遣い。おぬしは何がしたい? 先の迷宮の一件もそうであるが」

「黙りなさい」


 アルドンサは一言しか発していない。

 しかし、その声色はその場の空気を凍りつかせるには十分すぎるものだった。


 これ以上話す気はないといわんばかりにアルドンサは扉の方へと歩き出す。


 この場にいたのがアルドンサとフランコのみだったのが、まだ幸いだったのかもしれない。

 数分後、フランコはいつも通りに地上の観測を始めるのだった。

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