第百四十二話 路地の小料理屋
祭りの準備で人がごった返している通りを抜けると、食べ物屋が並ぶ通りにたどり着く。
しかし、そこもまた、宿屋の通りや祭りのメイン会場ほどではないが、普段よりも人が多い。
アンジェルは人込みを避けるように大通りから少し外れた場所を歩いていた。
路地に入ってから数分、人が少なく暗い通りにポツリと明かりをともしている店があった。
アンジェルは少し足早気味にそこへ向かう。
「こんばんわ」
「おう。アンジェルの嬢ちゃんかい。なんだ? また、夕食でも抜かれたか?」
アンジェルが店に入ると、店主が豪快な笑い声をあげながら迎えてくれた。
「違うわよ。ちょっとした調査をしてたら遅くなっただけ……別にそういうわけじゃないわ」
「あー言い訳はいいから。どうせ、懸命に考えた嘘なんだろ?」
「ひどいな。結構、本当なのに……」
確かにアンジェルが行っていたのは図書館としての“正式な調査”ではなくあくまで“私的な調査”だったのだが、やっていたという事実に変わりはない。
実際問題、様々な失敗で夕食を抜きにされたと泣きながら、この店を訪れる回数が多いのが原因なのかもしれないが……
「まぁいいよ。調査ですっかり遅くなっちまったんだな。それで? 何にするんだい? いつもどおりでいいか?」
「そうね。いつも通りにして頂戴」
そういった後、アンジェルは一番奥の席に座りだされた水に口をつける。
「……ねぇ実をいうと、人を探してるんだけど、銀髪の女の子見なかった?」
「銀髪? こらまた珍しいな……魔族か何かか?」
「いいえ。人間。それも王宮関係者。あぁ個人的に調べてることだから、信ぴょう性云々とかそこまで気にしなくてもいいわよ」
店主は、少し空を仰いだ後、首を横に振った。
「いや、しらねーな。うちは見ての通り客も少ないし、そんな珍しいやつがいたら覚えているはずだ。たぶん、ここには来てない」
「そう。わかったわ。ありがとう」
そういって、アンジェルはのんびりと天井を仰ぐ。
やはり、彼女は王都にはいないのだろうか? 森の迷宮……本当にそこにいるのならば、捜索にはかなり困難を極めるはずだ。
普通に考えたらその規模になったら、現状でやれることではないし、他人に協力を仰ぐにしてもそれを納得させられるレベルの根拠が必要となってくる。
「どうしようかな……」
手詰まりだ。
王都から出るのでさえ、厳しいのにそこから歩いて何日もかかるような森の迷宮まで行くとなるととてもじゃないが実現できないだろう。
「へいお待ち」
「相変わらず早いわね」
考えにふけっていたアンジェルの前に店主は、肉料理をはじめとしていくつかの料理が出された。
アンジェルはまず、目の前にあったスープに口をつけた。
「相変わらずおいしいわね」
アンジェルはほっこりと笑顔と笑顔を浮かべた。
「そうかい。ありがとうな……まぁ何を悩んでるか知らないが、そんなに暗い顔してたら、アンジェルちゃんらしくないぞ」
「そうね。まぁ深く考えても仕方ないか……」
アンジェルはぐいっと火酒をあおる。
先代勇者……確かに彼女の捜索は困難を極めるかもしれない。
しかし、それがなんだ。しっかりとやっていけばそのうち彼女にたどり着けるはずだ。
「よし! 明日から頑張ろう!」
「そうね。その前にちゃんと仕事をこなしてくれるとうれしいんだけど」
刹那、背後から聞こえてきた声に思わず背筋が凍りついた。
店主のほうを見ると、なんだか憐みの目を向けられている。
「あーえーと……」
「アンジェル。どこをほっつき歩いていたのかしら?」
「いえ、あのですね司書長。別に仕事をさぼっていたとかそんなことはないというかなんというか……はっはははは……」
やばい、非常にまずい。
一応、休みの日だとはいえ行き先を伝えずに王宮を出たのは少しまずかったかもしれない。
そんなことを考えたところで手遅れなのだが、アンジェルは張り付いたように笑みを浮かべたままその場で固まっていた。




