第百四十話 露店の店主
商店街の方に行くとすでにいくつかの露店が出来上がっていて、中には営業を始めているところもあった。
普段であれば露店営業はご法度なのだが、祭りのときばかりは別だ。
通りに沿うようにしてたくさんの露店が並ぶ光景は、異様でありながら日常の一部に溶け込んでいた。
「そこのお嬢ちゃん! きれいだね。少しうちの店を見て行かないかい?」
通りを歩いていたアンジェルに話しかけたのは、そんな一角に露店を構えていた店主である。
彼の店には、色とりどりの髪飾りが置いてあった。
「きれいね」
アンジェルは緑色の髪飾りを手に取った。
それは、緑色の宝石をあしらったもので、陽かざすときれいに光り輝いた。
「おう。お嬢ちゃんお目が高いね」
店主は、両手をすり合わせながら商品の説明を始めた。
「これはですね。北東部の鉱山で取れた貴重な宝石を使ったものでしてね。私共が手に入れられたのは、これ一つだけなんですよ。“普通の”客さんにはあまりお売りするつもりはないんですが、特別にお売りいたしますよ。えぇえぇ。これは、今日だけの特別ですよ」
「へぇそうなんですか……」
アンジェルはじっくりと商品を見定める。
彼女の中にある知識では、確かに王国北東部には鉱山が存在する。しかし、近年の王都への人口流入の影響により、あまたの鉱山が放置されているのだという。
「本当に貴重かもしれませんね。最近では、鉱山からの人口流出が激しいらしいですね。これを見つけるの大変だったでしょうね」
「おう。そうらしいな……いや、譲ってもらうのは大変でしたよ」
「そうですか……お値段はおいくらしました?」
アンジェルが問うと、店主は足元からいかにもそれっぽい手帳を取り出した。
それをちらりとのぞこうとするが、店主に阻止されてしまう。
はっきり言って、アンジェルはこの宝石が本物かという点であやしんでいた。
しかし、それを確かめる手は少なかった。
「えっと、100000Gですが、“特別に”50000Gでお譲りいたしますよ。どうです? 今だけの特別なお値段ですよ」
「へー確かに安いわね。でも、私が聞きたいのは仕入れ値ですよ? 確か、私の知識ですと、北東部の鉱山で産出される宝石は小さいものでも120000Gはするはずですけど……図書館の資料が間違っていたんでしょうか?」
アンジェルは首をかしげるが、店主は畳み掛けるように話を続ける。
「いえ、先ほども言いましたが、特別に安く譲ってもらったんですよ。どこの図書館の資料かはしりませんが……」
「あぁ私、王宮図書館で司書をやっております。もし、あれでしたらその安く仕入れられるルートというのと仕入れ値を教えていただいても? それとも、これは安く作った偽物ですか?」
アンジェルの言葉に対して、店主は顔を青ざめてしまった。
アンジェルがかかわっているというか、図書館司書の表向きの仕事では蔵書の整理などだが、実をいうとありとあらゆる裏ルートにも精通していて、この国のすべての物価について調査、研究も行っている機関という顔を持っている。
これに関しては、基本的に館長のマリーが一手に担っているのだが、それの補助も仕事の内といっても過言ではないだろう。
それが、世間一般……特に闇にかかわる側の人間からの見え方らしい。
「教えていただけないんですか? もし、疑っているのなら調査依頼書を持参しますが。それと、違法が発覚したところで私はどうこうしないのでご安心を……」
「いや……そのだな……」
店主は、いかにも居心地が悪そうに視線をそらすが、アンジェルはまっすぐと店主の顔を見つめていた。
「それで? どうなんですか?」
「……はぁ。わかりましたよ。わかりました。これは偽物だ。本物じゃないよ。これでいいか?」
お手上げといわんばかりに両手を広げた。
アンジェルは、ペコリと頭を下げた。
「えぇ。ご協力ありがとうございます。それと、ついでに聞きますが、二か月前にこのあたりで銀髪の少女を見ませんでしたか?」
アンジェルが問うと男性は、少し考え込んでから口を開いた。
「銀髪? いや、見てない……いや、そういえば二か月前ではないが、銀髪のやつがいたな」
「本当ですか!」
「あぁ確かに見た。この店で確か、これと同じものを買っていったんだ。確か、あっちのほうへ行ったぞ」
どうやら、祭りでもないのに露店を開いていたようだが、この際関係ない。
アンジェルは店主に頭を下げて彼が指差した方向へ向けて歩き出した。




