第百三十八話 ノエルの宿泊先
ノエルが部屋を出て行ってから数十分後、ノエルが戻ってきた。
「おかえり……どうだった?」
「どうやら、王都で祭りが催されるとかでどこの宿もいっぱいじゃないかという話でした」
「だと思ったよ」
聞き込みをする中でそんな話を聞いていたので、ある意味予想通りだ。
そもそも、先ほどまでの通りの人ごみを見てもそうだろう。なんでも、勇者が無事に帰ってきたことを記念してのものらしいが、誠哉としては、あまり参加する気にはなれない祭りだ。
そのため、あまり気にしていなかったのだが、こんな問題が発生してくるというのは予想外だった。
「そういうことですので、この部屋にいっしょに泊まることにしました。一応、支配人には話を通しましたので……」
「そうか……ってえ?」
「問題ないといっていましたので、それと料金の方も二人分でいいそうです」
どんな交渉術を使ったのか知らないが、ノエルはサラリとそんなことを言って荷物を部屋の端に置いた。
彼女の荷物は、急ぎできていたからか、とても少なく見たところ数日分の着替えぐらいだろうか?
「それと、ベッドについては私は、そこの女の子と一緒のところで寝ますのでご心配なく、セイヤ様は一人でベットを使ってください」
「……そうか、わかったよ」
一人だけ広々とベッドを使うのは申し訳なかったが、さすがにここで、自分と一緒の布団で寝ようはまずいだろう。
ユキぐらいだったらいいかもしれないが、それでも少し気が引ける。
「それじゃ、今日は遅いしボクは寝るよ」
「わかりました。私は宿で湯をいただきてきます」
ノエルがパタパタと部屋を歩き回る音を聞きながら誠哉は眠りについた。
*
窓の外から差し込む朝日で誠哉は目を覚まさした。
横との建物の距離が近いため、日中でも陽が差さないのかと思っていたのだが、どうやら建物の隙間をうまくすり抜けてここまで陽の光が届いているようだ。
だが、その光は残念ながら部屋の奥までは届かず、明るいのは誠哉が寝ている窓際のベッドまでだ。
誠哉はまだ寝たいと訴える気持ちを抑えながら起き上がり、机の上に置いてあるろうそくに火をつけた。
「……もう朝?」
「そうだよ。おはようユキ」
ちょうど、その時にユキが眠たそうに眼をこすりながらベッドから起き上がってきた。
どうやら、一緒に寝ていたはずのノエルは先に起きてどこかに行っているようだ。
「おや、二人とも起床されましたか。おはようございます」
部屋の扉を開けて、ノエルが入ってきた。
「おはよう。どこに行ってたの?」
「えぇ。ちょっと、厨房をお借りしていました。朝食がちょうどできたところなので召し上がってください」
ノエルが扉を抑え、その横を宿屋の従業員と思われる女性が盆を持って通った。
その上には、卵焼きとハム、パンというシンプルな朝食が三人分乗せられていた。
「失礼します」
「えぇ。わざわざありがとうございました」
女性が頭を下げて部屋から出ていくのを確認すると、ノエルは机の上に料理を並べた。
「それでは、食べましょうか」
「そうだね。いただきます」
「いただきます」
誠哉とユキはそれぞれ手を合わせてからフォークを手に取って朝食を食べ始めた。
「いかがでしょうか?」
「うん。すごくおいしいよ」
「私もそう思う!」
さすがは、魔王城のメイド長と言ったところだ。見た目はどこにでもあるような料理と変わりないのだが、塩コショウや焼加減が絶妙なのだ。
どこにでもありそうな料理をここまでうまく作れる彼女は、ただのメイドとしておくにももったいない人材なのかもしれない。
「そうですか。セイヤ様にお料理を食べてもらうの初めてなので……お口に合うか少し不安でしたが、それならよかったです」
「そうだね。そういえば、ノエルの料理を食べるのって初めてだったっけ?」
こんなにおいしいものを食べられるのだったら、せめて一回ぐらい食事をしてから魔王城を飛び出せばよかった。
そんなことを考えながら、誠哉はのんびりと朝食を楽しんでいた。




