第百三十七話 突然の訃報
宿の部屋のレイアウトは、とてもこじんまりとまとまっていて、ベッドが二つと机が一つ、イスが三つほどおいてある。
一応、部屋に窓はあるのだが、そこから見えるのは隣の建物の壁だ。
誠哉が窓を開けて下を見ると、宿の横にあると路地が見えた。
そこでは、何人かの子供が遊んでいる様子が見えた。
「これが、全部一葉が造ったゲームの中なんていまだに信じられないな」
誠哉の中で思い出されていたのは、いつか話していたアルドンサの言葉だ。
この世界はオリジナル・ワールド・オンラインと一葉がそう称していたゲームである。つまりは、すべてが彼女によって仕組まれた世界なのだが、誠哉が知る技術ではとても実現できないレベルのプログラムが組まれている。
例を挙げるならば、義妹にして、魔王のマアサにしてもそうである。
AIの技術は2020年代にはほぼ確立していたとはいえ、これほどのものをただの女子中学生が造れるとはとてもじゃないが考えられない。
そもそも、完全自立式人形であるアルドンサにしても、所詮はゲームの中の産物に過ぎないのだ。
「セイヤお兄さま?」
険しい顔をして窓の外を見ている誠哉を見て不安になったのか、ユキが袖を引っ張った。
「どうしたの?」
「お兄さま、今怖い顔してたから……大丈夫?」
「あぁそうか……大丈夫。面倒だけど、何の問題もないよ」
そういって、ユキの頭をそっとなでる。
ユキは気持ちよさそうに笑顔を浮かべた。
そもそも、ユキだってそうだ。
はっきり言ってしまえば彼女も妹の手によって造られた人形なのだ。
いや、あまりそういったことを考えない方がいいのかもしれない。
一度、そう思い始めると世界がどんどんとこれまでとは違うもののように見えてしまう。
「こんなことごちゃごちゃ考えたって仕方ないかな……めんどくさいし」
「そうですね。何のことかは知りませんが、手に負えないようなことはあまり考えないことをお勧めするわ」
聞こえてきたのは、どこかで聞き覚えのあるような声だった。
「面倒だけど、勝手に部屋に入らないでくれる? ボクとしては、君は魔王城の数少ない常識人だったと思うんだけど」
振り返るとそこに立っていたのは、魔王城のメイド長であるノエルだ。よほど急いできたのか、少し疲れた様子だったが、丁寧にお辞儀をして話し始めた。
「それは失礼しました。ただ、早急にお伝えすることがございまして」
「早急? なんか、面倒事?」
誠哉が聞くと、ノエルはどこか居心地悪そうにうつむいた後、真剣な表情を浮かべる。
「いえ、あの……実を言いますとマアサ様がお亡くなりになられまして……ご報告に上がりました」
彼女の言葉を聞いた誠哉は状況を飲み込めずにいた。
「マアサが死んだって……どうして……もしかして、面倒なことに暗殺でもされたのか?」
最初に誠哉の頭の中をよぎったのはそんな可能性だった。
魔族側の事情はあまり知らないが、魔王であるマアサが勇者に対して不戦敗という形をとったのに対し少なからず不満がある人物がいたのではないかという不安からくるものであった。
しかし、ノエルは静かに首を振った。
「……わからないんです。ある医者に診てもらったところ、寿命ではないかと……ただ、魔族としてはまだまだ子供と言っても過言ではない年齢ですので、本当にそうか少し怪しいところですが……可能性としては、もともと魔王一族は寿命が短いのではないかと言っていました」
「どういうことだ?」
「魔王というのは、通常の魔族よりも莫大な魔力を保有しています。なので、それが短命につながっているのではないかと言っていました」
ノエルがこちらに来るのにかかる時間を考えると、マアサは王宮であった直後か翌々日ぐらいまでに死んだということになる。
あんなに元気だったのに寿命というのはいささか信じにくいものがあった。
「そうか……状況が詳しく知りたいし、ボクも魔王城に顔を出すよ。それでもいいかい?」
「はい。今日はそのつもりで参りましたので。ただ、今日は転移魔法がもう使えないで移動は明日以降となります」
「まぁいいよ。無理させるわけにはいかないし……宿はどうするの?」
ノエルは、少し考え込んだ後、自分の考えを述べた。
「適当にこの辺で宿を探してみます。どうしても宿に入れそうにない場合はここに戻ってきますので」
そう言い残し、ノエルは部屋から出て行った。




