第百三十六話 王都の宿屋
路地を出ると、今度はそこの周辺で聞き込みを始めた。
しかし、この通りはもともと往来が激しく、多少挙動不審だったところで覚えているという人間……いや、それ以前に二か月前にここを通ったということを言っている人が圧倒的に少ない。
誠哉たちが歩いている周辺は、たくさんの宿屋が軒を連ねる通りのため地元の人が通ることが少なく、周辺の宿屋の従業員も仕事の忙しさから、宿に来た客以外の顔はあまり覚えていないという。
宿屋を一軒一軒回るという手もあるが、それはとてもじゃないが、二人で出来ることではない。
「ったく、面倒だな……」
路地裏にいたときは気づかなかったが、すでに陽は傾きかけ、旅人達は足早に宿へと吸い込まれていっていた。
誠哉は、ユキがいるということを考慮して、事前に宿をとってあったのでそこへ向かって歩き出した。
「セイヤお兄さま。これからどうやって探しましょうか?」
「そうだな……面倒だけど、こっちの方向に行ったっていうのはつかめたからな。ただ、あの証言が完全に信用できるかというと怪しいから絶対にそうだと考えない方がいいだろうけどね」
誠哉の頭の中をよぎっていたのは、観測者の存在だ。
彼女たちならば、人を操ってこちら側をミスリードしようとすることだってあり得るだろう。
いや、疑いすぎていては先には進めないのだが、誠哉は観測者という存在に対してかなり危機感を持っていた。
ユキの病室で見せた態度ぐらいだったなら、まだよいのかもしれないが、迷宮で見せたあの姿は、とてもじゃないが尋常ではない。くるっているという言葉がまさに当てはまっていた。
どの姿が本当の彼女なのかとか、そのようなことははっきり言ってどうでもいい。
とりあえず大切なのは、仲間に危害が及ばないことだ。
誠哉は、ユキの手を強く握り直して夕日の方向へと歩いて行った。
*
誠哉が宿屋につくと、ちょうど目の前で宿泊客だと思われる女性客と宿の主人と見られる男性と話しているところだった。
見たところ、雑談をしている様子だったので誠哉が近づくと、男性はいらっしゃいましと言って、頭を下げる。
「こんにちわ。昼に泊まるって予約していると思うんだけど、部屋は用意できてる?」
「名前を聞いても?」
「誠哉です」
誠哉が名乗ると、男性は受付に置いてある帳簿を見始めた。
「あぁ……はい。確かに……今から部屋に案内しますので」
そう言って、頭を下げた男性が廊下へ向かって歩き出す。
ふと、男性と話していた客の方を見ると、彼女の髪は覚めるような赤色でとても印象的だった。女性は、こちらがみていることに気づいていないのか、天上を見て何やら考え込んでいる様子だった。
「あの人……どこかで」
その女性を見ていたユキがそんなことをつぶやくと、その声が聞こえたのかは知らないが、女性はそそくさと出て行ってしまった。
「あの人とは仲がいいんですか?」
「あぁアンジェルちゃんのことかい? そうさね。あの子は、このあたりの出身だから時々遊びに来るんだよ。まぁ今日は、人探しをしてるとか何とかでね。ちゃっかりと手伝いを頼まれてしまったんだ」
男性は、カラカラを笑い声をあげる。
「時々、帰ってくるってことは普段は、どこか遠くで働いてるんですか?」
「いんや、あの子は王宮勤めだから、休みの日に来ようと思えばいつでも来れるはずさ。まぁあっちの仕事仲間とかもいるだろうし、こっちにいるのは本当にたまになんだけどね。と、ここがご用意していた部屋です」
男性が立ち止まったのは、廊下の一番奥にある部屋の扉の前だった。
誠哉は男性からかぎを受け取り、さっそく室内に入って行った。
「それでは、御用があればお申し付けください」
男性は、そう言い残して立ち去って行った。




