第百三十五話 路地裏での証言
路地を歩いていると、扉を開けて住民と思われる男性が出てきた。
「ちょっとすいません」
誠哉は小走り気味でその男性の方へと走り寄り話しかける。
「なんだい? ボクに何か用かな?」
「いえ、あなた個人にどうということはないんですが……この家の住民ですか?」
「はい。まぁそうですが?」
誠哉は軽く自己紹介をした後、適当なウソを交えて銀髪の少女を探していると告げた。
男性は、少し空を仰いだ後、あぁと思い出したように手をたたいた。
「そういえば、二か月前、そんな子がこの辺を走っていたな。近衛兵がたくさんいて、それはそれはもう大騒ぎだったよ。しかも、その子は私の前の通ったすぐ後に煙のように消えちゃったんだよ。どこぞの魔法使いが逃げていたのかね」
「それ、本当ですか? 銀髪の?」
「あぁそうさ。まぁ二か月の前の話だから、この辺にいるとは限らないけどね」
誠哉は礼を言って、先代勇者と思われる銀髪の少女が去って行った方向へと歩き出す。
どうやら、誠哉の推理は間違っていなかったようだ。
先代勇者は、何かしらの身を隠す魔法を使って近衛兵の目を逃れていたのだ。
「そうそう! その嬢ちゃん、確か手に分厚い本を抱えていたぞ! これでいいか?」
「ありがとうございます!」
男性の声を聞き届けた誠哉は、改めて礼を言って立ち去って行った。
おそらく、彼女は王都の付近にいる。
誠哉の中にはそんな確信があった。
*
「ご苦労様」
その声を聴いた途端、糸の切れた操り人形のように男性は意識を失った。
「ゆっくり休みなさい。永遠にね」
語りかける少女……アルドンサ・マリ・モンテジョルの声色は冷たかった。
「それにしても、アンナ簡単にコロッとだまされちゃうなんて、まだまだね。これだったら、あの一葉の方がましかしら? まぁいいわ。これで彼の興味はここら辺からそがれたはずだし、彼女の行方もつかめないでしょうし……何よりね。預言者さん」
「気づいていたの?」
「えぇ最初から見てたでしょ?」
アルドンサの背後に緑髪の女性が姿を現す。
「久しぶりってほどあってないこともないわね。観測者」
「……何の用?」
アルドンサの口調からは、あからさまな敵意を感じ取れた。
しかし、女性はそんなこと気にしないといわんばかりに笑いながら話を紡ぐ。
「そんなに邪険にしなくてもいいじゃない。私は、あなたたちが何をやろうと関係ないわ。だってそうでしょう? 観測者と預言者、記録者は同等なんだから……」
女性はスッと笑みを浮かべてアルドンサの耳元にささやく。
「表向きわね。調子乗るんじゃないわよ。格下が……」
顔を話して、先ほどと同じような声量で話し始める。
「世界の再構成なぞ望むな。考えるな。実行するな。あきらめよ。世界を造り変えることなどできない。なぜなら、我らは世界の一部であり、世界は我らの一部なのだから。我らよりも後からのこのこと出てきたちっぽけでみじめなそなたらなど、創造神を人質に取っていなければ、軽く我らの手にかかり終わっているだろうな」
預言者の言葉にアルドンサは、血が出るほど唇をかみしめる。
悔しかったのだ。言い返せない自分が、言い放題にさせている自分が……
しかし、周りには漏れていないが自分たちの手中に神はない。
だから、下手に喧嘩を売ってもし、それがばれたら一巻の終わりだ。
「わかったわ。今回は、おとなしく引いておくわ。強引な手段に出られても困るしね」
預言者は、これから起こることを神の啓示として自由に書き換えることができる。
もちろん、対象は自分が見た未来についてなのだが、この人物の未来がみたいと願えばそれができてしまう。
だから、ある程度ははじけるとはいえ、自分の未来を……運命をいじられるのはこの上なく不愉快な気分である。
アルドンサは、不機嫌そのままに光となって消えていった。
のちに残っているのは、不敵な笑みを浮かべている預言者のみである。




