第百三十四話 誠哉の推理
ユキが退院したすぐ後、誠哉は再びあの路地を訪れていた。
なんだか、前と若干の変化があるように感じたが、気にならないほどなのでこの疑問はとりあえずおいておく。
「今度は、大丈夫かな?」
「さぁな。面倒だけど、またあいつが出てきたらおとなしく引き返すしかないんじゃないのか?」
さすがに誠哉でも前と同じことをされてはたまらないからだ。
「今回は……来ないみたいだな」
慎重に周りを見ながら奥へと歩みを進めていく。
見た限りだと、何の変哲もないどこにでもありそうな路地だ。
家の裏口があり、物がごちゃごちゃと置かれていて、とても狭い。
人通りも少なく、路地に入ってからすれ違った人は一人か二人ぐらいだ。
「なんか、ちょっと怖い……」
ユキは誠哉の服をぎゅっとつかんでくっついた。
病室で見せたような雰囲気は年相応なそれとはかけはなれていて、世界を管理する側なのだと思わせたのだが、こういった姿を見ていると見た目通りの普通の女の子である。
それにしても、複雑なものだ。
こんなふうにしっかりと路地裏まであるのに、これらがすべて造りこまれたものだという事実には驚かされざるを得ない。
もちろん、すべてに一葉が関わっているわけではないのだろうが、この世界においてはすべてが彼女の手中にある状態……いや、手中にある状態だったのだ。
もしかしたら、観測者が台頭して下剋上を起こされることも最初からそうなるように仕組んでいたのかもしれない。
「いくらなんでもそれは考えすぎかな?」
いくらなんでも、すべてが計算通り。
それはありえないだろう。おそらく、観測者の台頭による自らの権威の失墜は予想外のアクシデントのはずだ。
そういった意味では、早く彼女をすくいださなければならない。
「……とここで行き止まりか。ということは、先代勇者が目撃された最後の場所ってことだな」
考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか三方を壁に囲まれていたのだ。
先代勇者を捜索していた近衛兵の話では、先代勇者はこの路地に入っていき、突き当りのこの場所で忽然と姿を消したのだという。
この途中にいくつかの分かれ道があるのだが、そこからもそれぞれ近衛兵が向かっていたため、別のルートで逃げた可能性は低い。
つまり、ここからどう移動したかというのは、先代勇者を探すうえで一番最初にぶつかる壁である。
「なるほどね……」
どこぞの物語のように壁の向こうに通路があるのかもしれないと思い、ためしに壁をたたいたり、押したりしてみるが特に変化は起きないし、純粋にただの壁のようだ。
壁の上によじ登ろうにも三方の壁はそれぞれとても高く、いくら熟練の勇者でも近衛兵が駆け付けるまでに壁を登りきるのは不可能であろう。
そうなると、転移系の魔法を使った可能性が生じてくるが、それもまた、発動までの時間を考えるとあまり現実的ではない。
「いったい、先代勇者はどうやってここから姿を消したんだ? いったい、何を使って……」
このあたりの家は、この路地に面している扉がない。
だから、家の中に逃げ込んだという線も考えづらい。考えられる可能性としては、姿を隠す魔法を使い、この場から逃げ去っていった可能性だ。
それも、近衛兵から逃げ切れるほど長続きさせられるか、怪しいところがあるが、使い方次第では十分にその効果を発揮するのであろう。
そうなると、ここにいても意味はないか……
仮にそうだった場合、ここにヒントがあるとは考えづらい。
一番いいのは、この路地周辺にいる人物への聞き込みだろうか?
「行くぞ、ユキ」
「はい」
誠哉はユキの手を引っ張り、その場所に背を向けて歩き出した。




