第百三十三話 ユキの夢
アルドンサが帰ってから数時間後、ようやくユキが目を覚ました。
「ユキ」
「セイヤ……お兄さま?」
ユキはゆっくりと体を起こした。
「大丈夫か? ユキ」
「はい。そこらへんは問題ないから大丈夫。ただね。夢を見ていたの」
「夢?」
「うん。とっても、楽しい夢……ヒトハお姉さまがいて、セイヤお兄さまがいて、マアサもアンナもオリーブもみんな一緒に笑っているの。そこには、前そうだったみたいにアルドンサも一緒に……そんな、もうかなえることができない夢」
ユキは窓の外の景色を見ていた。
空は雲一つないすがすがしいぐらいの快晴だ。
「ユキ……」
「でも、それでいいの。だって、みんなで仲良く幸せになれる、そんな世界を造りたかった。こんなふうに争いだらけの世界なんて造りたくなかった。それは、ヒトハお姉さまもそうだったはずなの……でも、実際にできた世界は、ニンゲンと魔族が争う世界だった。それがなくなって、勇者と魔王が代表で戦うようになったら、今度はニンゲン同士で戦い始める……ニンゲンはとても欲張りなの。どれだけ豊かになろうと、隣の家族がうらやましくてたまらない。どれだけ領土を広げて強くなっても隣の国の領土がほしくてたまらない……」
ユキは空を見たまま、話し続けていた。
誠哉は、ひたすら静かにその話を聞いた。
「最初からそういう風にプログラムしたわけじゃない。でも、ニンゲンはそういう風に進化していった。だから、最初は一つだったニンゲンの国は長い歴史の中で分裂と併合、侵略の歴史を繰り返してドンドンとバラバラになって行った。今となっては、ちゃんと国の数がわかっている人はいない。国境を越えれば異国人だといわれ、犯罪者扱いされてしまう。この世界は、国同士が関係を持とうとしないし、持てない。なぜなら、長年の風習や歴史のせいでそういう風になってしまっているのだから……絶対的中立だといわれている魔女であってもそれは種族的な意味であって、ニンゲン側で暮らしていくにはどうしてもどこかに所属する必要がある。なぜなら、たとえ一つの国の中でもいくつもの派閥が存在し、戦争こそ起きなくても、日々誰が国を治めるかということで腹の探り合いをしているのだから……」
次々と語るユキの言葉はどれも重みがあるものだ。
見た目は幼くても、あの場所から何年も世界の情勢を見てきた彼女だからこそ言える言葉なのかもしれない。
「それに対して、魔族は一つ。ずっと、昔からニンゲンを敵だといって魔族領をひとつにまとめてきた。でも、実際は上層部以外はニンゲンを受け入れ、仲良く暮らせていた。もちろん、悪意を持って接した者には厳しい仕打ちをしたみたいだけれど……魔族は、互いに受け入れ妥協することで平和と繁栄を手にしていた。ただ一つ。魔王が勇者との戦いで死ぬということを除けば……今となっては、魔王と勇者が争うことになるということは二度とないのかもしれないけれど、ニンゲンの大多数から見れば魔族は敵ということには変わりはない。特にこの国の人たちは、魔族が何をするということはないのに見えない可能性におびえ、魔族を積極的に退けようとする。それをよく見ると、魔族の土地がほしいという上層部の思惑が見え隠れする。そんな世界……私が、ヒトハお姉さまが望んだのはそんな世界じゃない……だから、さっきまで見ていた夢みたいにみんなが笑いあえる世界が出来たらいいなって、そう思ってしまうんです」
一通り話し終えたユキは誠哉の方を向いた。
おとなしく話を聞いていた誠哉は、少し考え込んだ後に口を開く。
「いいんじゃないか? その夢……だったらさ、面倒かもしれないけれど一緒にその夢をかなえようか……きっと、出来るよ」
「はい!」
誠哉が頭をなでると、先ほどまでとは違いユキは満面の笑みを浮かべた。
この娘と一葉とアンナとマアサと……みんなと、仲良く暮らしていきたい。
この時、誠哉はそう切に願っていた。




