第百三十二話 誠哉とアルドンサ
病院についた誠哉は、ベットで眠るユキの手を握っていた。
路地裏での出来事から、一晩経ったのだが、彼女は目覚めようとしなかった。
「ユキ……」
誠哉はゆっくりと彼女の頭をなでる。
ユキが倒れたタイミングを考慮すると、おそらく、これは預言者を名乗ったあの女性だろうの仕業だろう。
目的は誠哉たちがあれ以上踏みいらないのうにするため、といったところだろうか。
「結局、あの人は何が言いたかったんだ? あの先に何かがあるのか、それとも先代勇者のことは探るべきではないのか……」
結局、何もわからない。
あの女性は……預言者は、なにを隠そうとしていたのだろうか。
「……世界には知るべきことでないことがある。あなたは、その一角にかかわってしまっている。だからじゃないのかしら?」
そんな声が聞こえたかと思うと、背後に人の気配を感じた。
考えるまでもない。聞こえてきた声には、いやというほど聞き覚えがあった。
「アルドンサ・マリ・モンテジョル……何の用だ?」
「……クスクスクス。かなり邪険に扱うのね……まぁいいわ。一応、私からも警告してあげるわ。先代勇者にはかかわるなって」
誠哉は振り向かない。
アルドンサも彼を振り向かせようとはしない。だが、それとなくお互いの状態は分かっていた。
おそらく、アルドンサはのんびりと紅茶のカップを片手に不敵な笑みを浮かべていることだろう。
「あるべきものはあるべき場所へ。生きとし生ける人は、自由なれど生きる場所は限られている。人なら人の中、魔の者なら魔の中。神ならば神の中……すべてを超越し、本来の自由を勝ち取るは、魔女なり……どこぞの古臭い文章の中にある言葉よ。簡単に言えば、ニンゲンならニンゲンの国で生活しなさい。魔族なら魔族領で生活しなさい。神ならば天界で生活しなさい。どこでも自由に生きれるのは魔女ぐらいだ。そんなところかしら……私たち観測者は厳密に言えば、神に近いから神に含まれるわ。まぁ何が言いたいかっていうと、先代勇者は本来の場所へ帰ったのだから、手出しはするなってこと。あぁこれの意味はあまり追求することをお勧めしないわ」
そういうと、アルドンサは誠哉の横にやってきた。
「まぁとりあえず、言えることは誰に頼まれたのかは知らないけれど、先代勇者のことを探るのはやめなさい。それじゃ……」
「待て」
帰ろうとするアルドンサを誠哉は引きとめた。
何を思ったのか知らないが、珍しく彼女はおとなしくその場にとどまっていた。
「何かしら?」
「面倒なことに前々から気になっていたんだけど、この世界の仕組みってやつが……森の迷宮の奥で見た施設、そして君の数々の発言、ユキの存在……まるで……」
「ゲームみたいだ。そう言いたいのでしょ?」
アルドンサの言葉に誠哉は小さくうなづいた。
「そうね。昔、一葉から聞いたことがあるわ。Original World online……彼女はこの世界のことをそう呼んでいたわ。彼女の受け売りをそのままいえば、自分の思うがままにオリジナルの世界を造れるゲーム……そんなことを言っていたわ。彼女は、完成したゲームのテストも兼ねてこの世界を造った。そんなことを言っていたわ」
アルドンサは、誠哉のすぐ横に置いてあるイスに腰掛ける。
その手には、白いカップに入った紅茶があった。
「そもそも、開発したのは自分一人じゃないってことも言っていたけどね。そのほかにも仕様がどうとか、言っていたけれど、当時の私は全く理解できなかったから、内容はほとんど覚えていないわ。ただ、ここは私が追い求めた理想郷だ。理想の世界だ。そんな言葉が強く印象に残っているということかしらね。それにしても、余分なことをしゃべりすぎたわね。私の機嫌が良かったからいいけれど、そうじゃなかったらわかってるわよね」
そういうと、アルドンサは無数の光になって消えて行った。




